Seminar Paper 2006

Mai Takahashi

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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The Great Gatsby におけるMoneyの意義
Gatsby is a Trimalchio.

    The Great Gatsbyを読み終えて、私はやっぱり時間というものの存在が、それが人に与える影響がかなり印象強く、お金という要素にはそんなに関心がありませんでした。でも、授業中にお金に関する話はよく出てきていたし、今回こうやってこの作品を改めて考えるこの機会に、お金について考えてみたいと思いました。何人かのお金持ちがこのストーリーには登場しますがお金がこのストーリーにおいてどのような役割を果たしているか、また、GatsbyとDaisyがどのように「お金」というものをとらえていたか、自分なりに考えてみました。

    まず、お金といって頭に浮かんだのは大きな家、サーカスワゴン、毎週開かれる盛大なパーティーといったGatsbyの豪華さです。毎週土曜のパーティーには多くの人が訪れて、音楽も鳴り、お酒もあって一見すごく明るく華やかなものに思えますが、パーティーに来る客たちはGatsbyの顔すら知らず、黒い噂ばかり。これはやっぱり奇妙だと思います。そういうお金持ちというのは、何代も続く名家だったりするイメージが私はあるので。そんなGatsbyがこのように裕福になった理由というのはすごく大事なポイントだと思います。

    1920年に施行され、33年まで続いた禁酒法。これによって密造酒が横行し、暗黒街の犯罪を助長してしまったという、歴史的にみてもかなりよくなかった法律でした。Gatsbyもその奈美ののったうちの一人であり、酒のbootlegで大成功、巨万の富を得ました。World Seriesを裏から動かしたMr. Wolfshiemと組んで仕事をしていたし、彼が背後を気にする危険なニオイがする男なので、ずっと交流のあるGatsbyもかなり黒い雰囲気を持っていると考えられます。パーティー客たちがそんな噂ばかりするのも無理はありません。そんなGatsbyは、Daisyとの想いが通じあっっていた幸せな過去を取り戻す為に、そしてまずは彼女の関心を引くために、得た富を存分にひけらかしますが、彼は大事な、大事な事に気づかなかったがために大きな間違いを犯してしまいます。ここではこの彼の間違いについて、直接お金とは絡まない部分もありますが、一つずつ考えていきたいと思います。

    一つ目の誤りは、Daisyが望んでいたものに気づけなかったことです。昔、故郷で憧れのDaisyと想いが通じあったのに第一次世界大戦に徴兵されたしまった不幸。戦争が終わってからもすぐには帰れなかった不幸。Daisyからの不満の手紙を受け取るのが遅れ、GatsbyからしたらTomに彼女を横取りされたようになってしまったこと。大戦時という時代のせいではGatsbyは確かにかわいそうだと思います。でも、お金さえあれば過去は繰り返せる、Daisyは戻ってくる、と思ってしまったのは失敗でした。彼女は(Gatsbyと違って)時間の流れを無視することができず、Gatsbyとの関係も、単に若い頃の情熱とかロマンティックな勢いだけで維持していけなくて、Tomと結婚をしました。“She was feeling the pressure of world outside.”(p. 157)とあるように、彼女には時間や現実による焦りがあったと考えられます。だから、お金だけではDaisyを満たすことはできなかったのです。

    二つ目は、人としてもっていなければならない感覚が欠けていたことです。あの暑い日のホテルでの一件、Tomに対して“‘Your wife doesn’t love you.’”(p.137)と言ったり、事故のあとDaisyの家でベッドに入るまで待っていたりと、常識的に考えてちょっとおかしい行動をとる彼はモラルに欠けていると思います。第一、Daisyと再会するまでの道のりも、近くに住んだり、Nickに言ってもらったりと、まわりくどくて女々しい、なんだかストーカーっぽいです。こんなふうに愛を伝えられたら、普通の女性はひいてしまうと思います。まして家庭のある人なら尚更です。また、彼のピンクのシャツや、けばけばしい屋敷も美的センスがないと言えます。これはそんなに問題はないとは思いますが、Gatsbyという人間の異様さを際立たせていると思います。

    次は100%Gatsbyの責任とはいえなかもしれませんが、彼の、Jay Gatsbyの生い立ちを考えます。Gatsbyの生みの親であるJames GatzはHopalong Cassidyという古い本の裏表紙に一日のスケジュールを細かく書いているような少年でした。こういったスケジュールは、思えば小学生の夏休みなどによくやった気がしますが、張り切ってみっちりしすぎたせいなのか、やはりダラダラしてしまうのか、私は達成できたことは全くと言っていいほどありません。それをJames Gatzは実行し、しかもその内容もエクササイズや勉強はよくあるけれど、演説法、平静、及びそれらを達成する方法の練習だったり、週一のペースで本を読んだりと、かなりハイレベル、というか、上を意識したスケジュールだといえます。父親のご飯の食べ方が豚みたいと言ったことからも幼い頃から、農夫の息子という自分の立場に満足することなく、上へ上へという野心を持っていたとわかります。

    そんなJamesが“The truth was that Jay Gatsby of West Egg, Long Island, sprang from his Platonic conception of himself.”(p. 105)とある、理想の人間になる為のきっかけとなったのがDan Codyとの出会いでした。CodyはGatsbyに教育を施してくれたけど、彼もrush for metalで成功した人ですから、やはり真の上流階級をGatsbyに伝授することはできなかったのでしょう。この、成り上がり者Dan Codyが師匠であったことはGatsbyにとって不幸でした。お金はあるけど上流階級にはなれない。これは彼にとって最後までつきまとう最大のネックと言えると思います。Mr. Sloaneとのエピソードがこの生い立ちのあとに書かれているのにも、それが強調されています。根っからの上流である3人に自然に振る舞おうとするもぎこちなく(これはTomがいたせいですが)、明らかに浮いているし、Mr. Sloaneの「来てほしくないサイン」にも全く気づきません。上流のマナーというのが、どういうものなのか私はハッキリわかりませんが、やはりこういった場で空気の読めないGatsbyは中身の伴わない、お金だけの成り上がり者どまり、なんだと思います。

“Gatsby looked at me questioningly. He waned to go, and he didn’t see that Mr. Sloane had determined he shouldn’t.”(p.110)
で、Mr. Sloaneは完全にGatsbyを自分たちの仲間とするのを不合格にしているのも、当然だと思ってしまいました。一人、ウキウキで準備をしてきたのに置いていかれた姿が印象的です。

    お金に関して一つGatsbyの気になるセリフ、“Her voice is full of money.”(p.126)というのがあります。Nickも「人をひきつける」と思った彼女の声に対するセリフ、この意味を考えてみると、文字通り「お金には困らない、金銭的余裕を感じさせる声」ということもあるだろうし、GatsbyがDaisyとお金とを結びつけて考えすぎていた為にそんな風に聞こえのでは、という感じもしました。 そのDaisyはお金ではなく、pressure of world outsideから逃れる為、自分自身がsafeな状態でいること、nice girlであり続けることを望んでいたので、Tomと結婚し、Myrtleを轢いたことをGatsbyのせいにしてしまう、裏切りをします。そんなDaisyの本性、裏切りに気づかなかったということは、必ずしもGatsbyにとっては不幸ではなかったのではないでしょうか。気づかなかったから最期まで彼女を愛し、彼女のために死ねたし、もしそんな女と結婚していたら、それこそGatsbyは不幸だったと思います。そうならずに、結果、Daisyという夢を最期まで追い求めたという点で彼はタイトル通りgreatだったと思います。 このタイトルにあるgreatですが、Gatsbyは「偉大さ」も「偉大さに欠如」も持っていると思います。その二つこそGatsbyを構成している、彼の表と裏といえるのではないでしょうか。

    外面的に見たらGatsbyは西部出身の成り上がり者に過ぎません。たとえばNickはsome deficiency in common(p.183)という西部出身の彼らがもともと持っていたWesternerの感覚というかモラルとでもいうべきそれを、うとましく思いつつも、東部の一見豪華なのに裏では人のつながりの薄い様に呆れ、その感覚をよいと認めます。そんなNickからしたらGatsbyを“who represented everything for which I have an unaffected scorn.”(p.8)と表現したのは当然です。でもGatsbyがお金持ちになったのは、いわゆるAmerican Dreamと言われるような田舎者が成功して富を得ることを目的としているのとは違って、彼にとってお金はあくまでも手段にすぎません。彼の目的はDaisyという夢の実現だけです。今まで見てきたように、彼はその夢をひたすらに追い、その実現に生涯を賭けました。Nickはそんな彼を、“some heightened sensitivity to promises of life”(p.8)といったromantic readinessといっていて、東部の荒れた世界で見出したからGatsbyをよしとしたのだと思います。

    そうしたGatsbyのことを思っていたNickはストーリーの最後に“green breast of new world”(p.187)を見たオランダの船乗りたちの喜びや感動と通じるものを感じ、新大陸に自分たちの理想の社会を創ろうと志し、絶えず過去へ過去へと運び去られながらも流れに逆らう舟のように力に限り進んでいく船乗りたちの姿を重ねています。こうやって見ると、Gatsbyという一人の人間を通してAmerican dreamを描いたもの、とも見られると思います。

    この作品は、農業州ノース・ダコタ出身の若者が立身出世していくAmerican Dreamとしての面と、上流社会の現実、そして愛と夢と人とのつながりに翻弄されて生きて果てた一人の男のはかない美しさを持ったストーリーだと思いました。 「時間」と同様に、このストーリーを考えるのに不可決な「お金」の影響力の大きさと無力さ、そしてGatsbyとDaisyのお金のとらえ方の違いがもたらした悲しい結末が心に残る作品でした。


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