Seminar Paper 2006
Shizuka Watanabe
First Created on January 31, 2007
Last revised on January 31, 2007
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The Great Gatsby におけるMoneyの意義
お金に翻弄され破滅する人々
The Great Gatsbyにおいての人間関係や事件は「お金」によって生じていると言える。そして登場人物の中で不幸な結末をたどる人物には、「お金」に固執し、振り回される特徴が見られる。Myrtle, Daisy, Gatsbyがこれにあたる。 まず、MyrtleはWilsonという夫がいるにもかかわらずTomと浮気をしてしまう。その理由は、上流階級に憧れを抱き、裕福でないWilsonに愛想を尽かしたからである。これは ”’I married him because I thought he was a gentleman,’ she said finally. 'I thought he knew something about breeding, but he wasn’t fit to lick my shoe.’” (p. 41) というMyrtleの台詞に明確に表れている。ここで彼女の言う”gentleman”とは単に「紳士」という意味だけでなく、「お金」「教養」「良い家柄」を持ち備えた人物という意味だと捉えることができる。また、”breeding”とは「家系」や「家柄」という意味も含んでおり、Myrtleが「お金」や「良い家柄」を求めていることがわかる。 The only crazy I was was when I married him. I knew right away I made a mistake. He borrowed somebody’s best suit to get married in, and never even told me about it, and the man came after it one day when he was out: ‘Oh, is that your suit?’ I said. This is the first I ever heard about it.’ But I gave it to him and then I lay down and cried to beat the band all afternoon.(p. 41) 上記の引用文からわかるように、Wilsonが結婚式で着るスーツを買うお金もなく、友人にスーツを借りていたことがわかり、彼が”gentleman”ではないことを知ったMyrtleは失望している。Myrtleのアパートの下の階に住むMrs McKeeが自分より階級の低い男性と結婚しそうになった、という話をした時、Myrtleは ”’at least you didn’t marry him.’” “’Well, I married him,’”(p. 40)と言っている。後者のhimはWilsonを指しており、ここでは明らかに下流の階級のWilsonと結婚したことを後悔している。夫に失望し、上流階級の仲間入りを果たせなかったMyrtleが出会ったのがTomであった。Myrtleと初めて会った時のTomは “He had on a dress suit and patent leather shoes,”(p. 42)というように、一目で上流階級とわかる服装をしている。それに対してMyrtleは”I couldn’t keep my eyes off him”(p. 42)という反応を見せている。彼女はdress suitやleather shoesに目を引かれ、Tomに興味を持ったのである。こうしてMyrtleはTomと浮気をし始め、自分が上流階級になったような気分になるのだが、彼女が上流階級に憧れている様子はいたるところに見られる。たとえばNickとTomとMyrtleの三人でタクシーに乗り、途中道端で売られている子犬を彼女が欲しがる場面である。本当の金持ちならば、道端で犬を買うことはないだろう。彼女は上流階級ならば犬を飼うべきであると考え、犬を飼うことに憧れているのである。彼女は警察犬を熱望するが、いかにも金持ちの家にいそうな種類の犬だ。また、彼女は上流階級になったつもりで周囲の人間を見下し、尊大な態度をとることを好む。これは以下の引用文に表れている。 Mrs Wilson had changed her costume some time before, and was now attired in an elaborate afternoon dress of cream-coloured chiffon, which gave out a continual rustle as she swept about the room. With the influence of the dress her personality had also undergone a change. The intense vitality that had been so remarkable in the garage was converted into impressive hauteur. Her laughter, her gestures, her assertions became more violently affected moment by moment, and as she expanded the room grew smaller around her, until she seemed to be revolving on noisy, creaking pivot through the smoky air.(pp. 36-37) Nickはその場の雰囲気がMyrtle中心になっていくのを感じたのである。そして彼女は尊大な態度をとるために、賞賛されるためにMrs McKeeを招待したのである。Mrs McKeeがMyrtleの着ている服を褒めたとき、Myrtleは ”’It’s just a crazy old thing,’” “’I just slip it on sometimes when I don’t care what I look like.’”(p. 37)そして最後には “I’m going to give you this dress as soon as I’m through with it.”(p. 42)と言う。Mrs McKeeを見下し、彼女からの賞賛に酔っている様子が見られる。このように、Myrtleは尊大な態度をとり、周囲の人間から褒められたいために上流階級になりたがるのである。彼女にとって「お金」とは自分を輝かせるものである。Tomと不倫をすることで上流階級になったような気分を味わい、他の人々より高い身分であることに喜びを感じている。しかしそれは所詮偽りの階級であり、上流階級になりきれていない。Myrtleを轢いた車は実際にはGatsbyのものであったが、彼女はそれをTomの車だと勘違いしている。 Her expression was curiously familiar ? it was an expression I had often seen on women’s faces, but on Myrtle Wilson’s face it seemed purposeless and inexplicable until I realized that her eyes, wide with jealous terror, were fixed not on Tom, but on Jordan Baker, whom she took to be his wife. (pp. 130-131) 以上の引用文からわかるように、Myrtleは黄色い車に乗っているのがTomだと認識している。そして死ぬ間際、 ”but it seemed to me that she wanted to speak to us thought we were somebody she knew.”(p. 150)とGatsbyが言うように、Myrtleは黄色い車を呼び止めようとしてその車に轢かれてしまった。彼女は黄色い車をTomのものだと思い込んでいたのである。結局彼女は死の瞬間までTom、つまりお金を求めていたのである。 Daisyもまた、「お金」に固執している人物のひとりである。それは ”’Her voice is full of money,’”(p. 126)と表されている。Gatsby自身、彼女が「お金」を一番に求めていると気づいているのである。Daisyが「お金」を求める理由は、「お金」によって生活が安定され、生々しい外の世界から保護されたいと思っているからだ。彼女は裕福な家に暮らし、”gleaming like silver, safe and proud above the hot struggles of the poor.”(p. 156)であることを望んでいる。DaisyはGatsbyのパーティーでほとんど楽しむことができなかったのは、 She was appalled by West Egg, this unprecedented ‘place’ that Broadway had begotten upon a Long Island fishing village ? appalled by its raw vigour that chafed under the old euphemisms and by the too obtrusive fate that herded its inhabitants along a short-cut from nothing to nothing. She saw something awful in the very simplicity she failed to understand. (p. 114) と書かれているように、East Eggとは違い、そして彼女のこれまでの優雅で人工的な暮らしとも異なり、生々しく現実的な世界に圧倒され拒絶したからである。Daisyの世界は人工的で、ランの香りをにおわせ、オーケストラが悲しみや期待を表現して演奏する世界なのだから。DaisyはGatsby のパーティーのような外の現実的な世界から守られて安定した生活を送ることをなにより求めている。 “She wanted her life shaped now, immediately ? and the decision must be made by some force ? of love, of money, of unquestionable practicality ? that was close at hand.”(p. 157) という部分にそれが明確に表れている。そのために、Gatsbyが戦争へ行ってしまい不安になったDaisyはTomと結婚するのである。”There was a wholesome bulkiness about his person and his position, and Daisy was flattered.”(p. 157) とあるように、DaisyはTom自身、そしてその身分に安定を感じ、惹かれているのがわかる。Tomが浮気をしていることに対し激怒するのも、現在の安定した生活がそれによって崩壊してしまうのを恐れたためであろう。そんなDaisyも、一時はTomを忘れ、Gatsbyと再び恋に落ちる。しかしもともとGatsbyを愛したのも、純粋に彼自身に魅力を感じたのかは定かではない。Gatsbyは裕福な家庭に生まれたわけではなく、もともとDaisyよりも階級は下である。彼女を安心させようと ”he let her believe that he was a person from much the same strata as herself ? that he was fully able to take care of her.”(p. 155)としたのだからDaisyはGatsbyの身分上の安定に少なからず魅力を感じたのであろう。本当に金持ちとなり現れたGatsbyに会い、豪邸を案内され、Daisyは再びGatsbyに惹かれていく。しかし、Gatsbyは結局成り上がり者で、本物の上流階級ではなく、仕事も何をやっているのか良くわからない節がある。表面的にはDaisyを騙せていても、彼女は直感でGatsbyには安定がないと感じたのかもしれない。彼女はTomを選んだのだから。Gatsbyといることで結局はTomと修羅場になり、激しく動揺したまま運転したDaisyはMyrtleを轢き殺してしまう。この時にGatsbyと一緒にいては安定がないとはっきりと感じたのであろう。 “There was an unmistakable air of natural intimacy about the picture, and anybody would have said that they were conspiring together.”(p. 152) というように、この事件の後にDaisyとTomの関係は修復し、Daisyは二度とGatsbyと会わないことからわかる。さらにここでの”conspiring”とは「共謀する」という意味であり、本当はDaisyが運転していたのにもかかわらず、二人がGatsbyに罪をかぶせようと企んでいる様子がみられる。Daisyは自らの安定のために、一度は愛した男性を破滅へと導いてしまうのである。それほどまでに彼女は「お金」による安定をもとめているのだ。彼女にとって「お金」とは、安定した生活を送るためのものなのである。Myrtleと同じように「お金」に固執し、破滅の道を辿りそうになるDaisyが、それでも何とか完全には破滅しないのは、彼女が元々上流階級であり、Myrtleのように見分不相応な望みを持たなかったからなのかもしれない。その点で、Daisyは器用だといえる。 最後に、この物語の軸となる人物、Gatsbyも、「お金」に固執し破滅する運命となるひとりである。彼は元々、Daisyと出会う以前から身分やお金に関しての理想を持っている。 ”His parents were shiftless and unsuccessful farm people ? his imagination had never really accepted them as his parents at all.”(p. 105) “He told me I et like hog once, and I beat him for it.’”(p. 180) そしてかれが作ったSCHEDULE (p. 180) からわかるように、彼は階級が低い両親を認めず、無作法な食べ方を軽蔑し、理想の自分を作ろうとしていた。そして名前を変え、Jay Gatsbyという人格が生まれたのである。彼が本格的に「お金」を求めるのはDaisyがTomと結婚してからである。彼はDaisyを再び振り向かせるためにひたすら「お金」を稼ぎ、豪勢な暮らしをする。すでに述べたように、最初に二人が恋に落ちたとき、GatsbyはDaisyが身分上の安定を求めていたことをわかっていたのか、自分がDaisyと同じ階級であると偽っている。再びDaisyの愛を取り戻すためには本当に金持ちになることが必要だと、彼はわかっていたのであろう。みごと金持ちとなり、豪邸に住むようになるGatsbyは、豪華さをDaisyにアピールする。それが最も明確に表れているのが、GatsbyとDaisyが再会した日に彼が自宅をDaisyに見せてまわる場面である。彼は部屋をひとつひとつ案内し、自分の部屋では色とりどりのシャツをDaisyに見せる。彼にとっては、金持ちであるということが一目で認識されることが重要であり、服装もそのための道具のひとつである。そのため、綺麗なシャツを豊富に持っていることをアピールするのだ。 “He hadn’t once ceased looking at Daisy, and I think he revalued everything in his house according to the measure of response it drew from her well-loved eyes.”(p. 98) というNickの言葉からわかるように、Gatsbyは自宅の豪華さをDaisyに見せ、喜ぶDaisyを見て満足しているのである。また、二人が再会する数日前、Gatsbyは夜中に家中の電気をつけ、部屋見回っている。これはDaisyが来たときに不備な点はないかチェックしていると同時に、Daisyに自らの存在を主張しているようにも見える。Nickが ”I was afraid for a moment that my house was on fire.”(p. 88)と言うように、火事と見間違うほどの光を放っていたのだから、対岸にあるBuchanan邸からもその大きな光が見えるとGatsbyは考えたのだろう。そして、Gatsbyの豪華さの象徴であるパーティーにDaisyとTomを招待し、自分がいかに豪華であるか、いかに有名な人物とつながりがあるかをアピールしている。このようにGatsbyはDaisyを振り向かせるために、自分に「お金」があることを主張するのだ。GatsbyはDaisyのために金持ちとなり、豪邸に住み、パーティーを開くのだが、それはDaisyを振り向かせようとしている時と、Daisyと再び愛し合うようになった後とのGatsby邸の様子からわかる。Daisyを振り向かせようとしている時は、庭の芝生はきれいに整えられ、毎週末パーティーを開いている。しかしDaisyを手に入れた後はパーティーが催されることは二度となく、”his career as Trimalchio was over.”(p. 119)となる。さらに、Myrtleを轢き殺してしまった事件の後では His house had never seemed so enormous to me as it did that night when we haunted through the great rooms for cigarettes. We pushed aside curtains that were like pavilions, and felt over innumerable feet of dark wall a sort of splash upon the keys of ghostly piano. There was an inexplicable amount of dust everywhere, and the rooms were musty, as though they hadn’t been aired for many days.(p. 153) 以上のようにGatsby邸は以前の豪華で整った面影はなく、ほこりだらけで寂しさすら漂っている。Daisyの気を引くために存在していた豪邸やそこで行われるパーティーは、もはや無意味なものとなってしまったのである。以上のことから、Gatsbyがこれまで行ってきたパーティーは自分の存在をDaisyに気づいてもらうためであり、そのパーティーを行うため、豪邸に住み豪華な暮らしをするために、金持ちとなったことが言える。つまり、Gatsby にとって「お金」とはDaisyを手に入れるための基盤であり、必要なものである。Daisyを手に入れることだけに人生を注いできた彼にとって、「お金」を稼ぐことが全てだったに違いない。しかし彼もまた、Myrtleと同様に元は低い階級の人間である。身分不相応なものを求めてしまったがために破滅の道へと進んでしまうのだ。彼は結局人生のすべてだったDaisyに裏切られ、死んでしまう。彼の葬式では参列者はNickとGatsbyの父親と、owl-eyed manのたった三人である。これはGatsbyがいかに人生を「お金」を稼ぐためだけに費やし、親しい友人を作りはしなかったかを表している。むしろ彼には友人を作る必要はなかったのかもしれない。彼にはDaisyさえいればよかったのだから。 The Great Gatsbyに登場する人物の中で、Myrtleは上流階級に憧れ「お金」を持っているTomと不倫をし、Daisyは「お金」によって安定した生活を求めてGatsbyを裏切りTomを選び、GatsbyはDaisyとの愛を取り戻すために「お金」を稼ぐことに人生を費やす。この三人は「お金」に固執したためにそれぞれ死んでしまったり事故を起こしてしまったりと不幸な結末を辿るのである。The Great Gatsbyとは、「お金」によって引き起こされる男女関係のもつれを描いた物語だと言える。 |
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