Seminar Paper 2006

Eriko Yanagisawa

First Created on January 30, 2007
Last revised on January 30, 2007

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The Great Gatsby の女性たち
女性登場人物の性格からみられるFitzgeraldの女性観

  F. Scott Fitzgerald のThe Great Gatsby、この作品を語るときに欠かせないのは、物語に登場する女性たちの存在である。なぜなら、彼女たちの行動が物語を複雑にし、Gatsbyの人生を悲劇的な展開へと導いていくからである。作品を最後まで読み終えて、彼女たちには共通点があるように思った。それは、「dishonesty(不誠実)でcareless(不注意)」な性格である。そして、それらの共通点には作者Fitzgeraldの女性観が表れている、という仮説が立てられる。そこで私はこの女性たちを分析し、作品に表れるFitzgerald自身の女性観を論じていくことにする。

  まずはDaisyについて分析していく。彼女はGatsbyにとっての「全て」であった、といえる女性であり、物語は彼女の行動によって動かされていったといっても過言ではない。Daisyは、当時付き合っていたGatsbyが戦争に行ってしまうと、彼を裏切り資産家のTomと結婚してしまう。しかし、戦争から戻ったGatsbyに再会すると、今度は夫のTomを裏切り、彼と不倫を続ける。“‘Oh, you want too much!’ She cried to Gatsby. ‘I love you now ? isn’t that enough? I can’t help what’s past.’ She began to sob helplessly. ‘I did love him once, but I love you too.’”(p. 139) これは、Daisyが GatsbyをとるかTomをとるかと迫られる修羅場でのセリフである。彼女は、最終的にはGatsbyとTomのどちらを愛しているのかを決めることができず、「両方愛している」と開き直った発言をした、と受け取れる。ここから、Daisyのdishonestな性格がうかがえる。

Daisy and Tom were sitting opposite each other at the kitchen table, with a plate of cold fried chicken between them, and two bottles of ale. He was talking intently across the table at her, and covered her own. Once in a while she looked up at him and nodded in agreement. ___There was an unmistakable air of natural intimacy about the picture, and anybody would have said that they were conspiring together. (p. 152)
さらに、この場面でもDaisyのdishonestyな性格が表れている。ここは、Daisyが自分の起こしたひき逃げ事故の後、家に帰ってTomと何か話をしているところである。二人の話していることは、もちろん事故についてであろう。Tomは、事故現場で目撃された黄色いクーペがGatsbyの車だと知っているので、「犯人は彼だろう」と問い詰めていると考えられる。彼女はおそらくGatsbyが車を運転していたことにして、彼に罪を着せるつもりなのだろう。もしかしたら、彼が自分をかばってくれるだろうことも分かっていたかもしれない。どっちにしろ、Daisyは事故とは関係ないということにして、2人は元のさやに落ち着いてしまった。その後は、Gatsbyが彼女の罪をかぶって死んでいっても知らん顔で、彼の葬式にも顔を出さなかった。自分の起こしたことの責任をまったくとらず、全ての後始末を他人に任せるかなり無責任な性格だが、甘やかされ、いつもちやほやされてきた彼女らしいともいえる。

  次に、Daisyの夫Tomの愛人であるMyrtleについてである。彼女は「灰の谷」にあるガレージに夫George Wilsonと暮らしている。しかし、上流階級に憧れていて、Tomと浮気をしている。

‘I married him because I thought he was a gentleman,’ she said finally.
‘I thought he knew something about breeding, but he wasn’t fit to lick my shoe.’ ___
‘The only crazy I was was when I marred him. I knew right away I made a mistake. He borrowed somebody’s best suit to get married in, and never ever told me about it, and the man came after it one day when he was out: “Oh, is it your suit?” I said. “This is the first I ever heard about it.” But I gave it to him and then I lay down and cried to beat the band all afternoon.’(p. 41)
このセンテンスから分かるように、彼女が夫と結婚した理由は、彼がgentlemanだと思ったからである。辞書を調べたところ、gentlemanには紳士(教養、礼儀、思いやりのある男性)という意味と、紳士階級の人、有閑階級の人といった上流階級を表す意味がある。ここからMyrtleは、George Wilsonが上流階級の出身で、資産を持っていると思ったから結婚したと考えられる。だが実際はまったく違っていたため、失望していたのである。その後Tomと出会い、一瞬迷うも、“‘You can’t live forever; you can’t live forever.’”と考え、彼と関係を持つことを選んだのだ。彼女はTomとの浮気生活のなかで、犬を飼ってみたり、買うもののリストを作ってみたり、友人のMrs. McKeeとセレブぶった会話をしてみたりと、上流階級を気取っているが、やはり教養の無さが出てしまっている。Nickも、“I was within and without”と言っていて、階級の違いを感じている。Myrtleの場合、お金持ちの上流階級に憧れて夫や浮気相手を選んだり、身分不相応な行動したりしている点でdishonestyだといえると思う。

  最後に、Jordan Bakerについて分析していく。

‘You’re a rotten driver,’ I protested.
‘Either you ought to be more careful, or you oughtn’t to drive at all.’
‘I am careful.’
‘No, you’re not.’
‘Well, other people are,’ she insisted. ‘It takes two to make an accident.’
‘Suppose you met somebody just as careless as yourself?’
‘I hope I never will,’ she answered. ‘I hate careless people. That’s why I like you,’ (p. 65)
これは、NickとJordan Bakerが彼女の自動車の運転について話し合っている場面である。Nickに「運転が下手だ。もっと注意深くするか、そうでなければ運転しないべきだ。」と指摘されたJordanは、屁理屈のようなセリフをならべている。私は、彼女は自分がcareless peopleだと認めながらも、carefulでいたいのだと感じた。また、周囲にもそう思わせたいのではないかと思う。しかしcarelessな彼女がcarefulでいるためには、周りの人たちが常にcarefulでいる必要がある。Jordanはいつも人より有利な立場にいたいために、不利な状況に立たされると口実をでっちあげるが、彼女と同じcarelessな人物に出会えば事故が起きてしまう、つまりでっちあげたうそが露呈してしまう。だから彼女はcarelessな人を嫌うのである。‘I hate careless people.’というセリフは彼女の本音だといえる。やはり彼女もdishonestyだといえる。

  さらに、上のNickとJordanの会話は、この物語のテーマとも結びつくと思う。登場人物全員が、実はcareless peopleだったのである。そのため、物語のなかでさまざまな事件が起きたのだ。つまり、'It takes two to make an accident.’ は、DaisyがMyrtleをひき殺した事件にもいえることなのである。 ハンドル操作を誤り、ブレーキを踏まなかったcarelessなDaisyと、黄色いクーペに乗っているのがTomだと勘違いし、道に飛び出したcarelessなMyrtle、この二人が出会ったことによってこの物語のクライマックスである、あの悲劇的な事故が起きたといえる。

  Daisy、Myrtle、Jordan Bakerを分析してみて、彼女たちに共通しているのは「dishonesty(不誠実)でcareless(不注意)な点」であるということが分かった。おそらくFitzgeraldは女性をそのようなものだと思っていたのではないだろうか。本文中に“Dishonesty in a woman is a thing you never blame deeply. −I was casually sorry, and then I forgot.”これは作者の本音が出たものであるといえる。では、その女性観はどこからきたものなのか。それは、作者の妻Zeldaの影響だと私は考える。彼がThe Great Gatsbyを執筆しているあいだに、“彼の愛妻のゼルダがフランスの海軍将校と恋愛ざたを起こしたらしく、彼はそのための悩みを抱きながら筆をとっていたようである。”(橋本福男『華麗なるギャツビー』早川書房、1974年、p. 251)さらにゼルダは、Daisyと同じく美しくもてたため、男性に対して大胆で積極的であったという。彼女は“社交界にデビューしたあとも、好き放題な生活をつづけた。毎夜のように家を抜け出して男と遊びまわり、(中略)彼女のまわりにはごく自然に男たちが群がった。”(村上春樹『ザ・スコット・フィツジェラルド・ブック』TBSブリタニカ、1988年、p. 125)これは、作中のDaisyそのままである。また、Zeldaは分裂症であったという。彼女の大胆さは“それじたい分裂症的な気まぐれ、一貫性の欠如であった。”(折島正司・平石貴樹・渡辺信二『文学アメリカ資本主義』南雲堂、1993年、p. 286)Daisyの“最後まで1人の男性への愛情に執着しえない”ところも一貫性が欠けるといえ、分裂症的である。さらにNickはDaisy とTomに対して、“It was all very careless and confused.”(p. 186)と述べている。“不注意と混乱こそは現代人の分裂症的精神の特徴” (折島正司・平石貴樹・渡辺信二『文学アメリカ資本主義』南雲堂、1993年、p. 287)であり、Zeldaもおそらくcarelessな性格だったといえる。男性に対して奔放でdishonestyであり、分裂症ゆえにcareless でconfusedだったといえるZeldaの性格が、物語の女性たちを描く際に大きく影響したのではないか。

  このようにThe Great Gatsbyの作中の女性たちを分析すると、彼女たちの性格は「dishonestyで careless」という点で共通している。そこには妻のZeldaの性格から影響を受けた、作者の女性観が表れていると考えられる。物語の中でGatsby、Nick、Tom、Wilson、登場人物たちは皆がdishonestyで carelessな女性たちに翻弄されていたといえる。もしかしたら作者も同じ様にゼルダに翻弄されていたのかもしれない。と同時に、作者はそんな女性に魅力を感じていたのではないだろうか。


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