Seminar Paper 2007

Miyuki Kumekawa

First Created on January 29, 2008
Last revised on February 4, 2008

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TThe Color Purple におけるジェンダー問題
〜性差別からの解放〜

    The Color Purple は、男性に虐げられて生きてきた主人公Celieが様々な人と出会うことによって成長し、自立していく姿を描いた物語である。物語の舞台は、1900年代半ばのアメリカである。この当時、アメリカでは第1波フェミニズムが起きた後で、女性の社会進出も見られるようになってきた。しかし、その認識はまだ薄く、特に南部では女性は男性より低い立場のものとして扱われることがしばしばあった。この物語では南部で生きる黒人女性Celieを通して、読者である私たちに女性の真の強さと社会進出を訴えている。本論では、Celieが性差の障害を乗り越え自立に至るまでのポイントは何だったのかを検証していく。

◇最初のCelie(男性に対する恐怖)◇

    Celieは、幼い頃に実の父親とされていた男にレイプされたことがトラウマとなり、男性に対する恐怖心を募らせる。救いを求めるように、神に手紙を書き始めるが、手紙の中でAlfonsoやAlbertをMr._と記している。その理由には、男性への恐怖心や手紙を書く後ろめたさから匿名にしたと考えられる。Celieは父親からひどい扱いを受けただけではなく、まるでモノのようにAlbertに引き渡される。

”She ugly. He say. But she ain’t no stranger to hard work. And clean. And God done fixed her. You can do everything just like you want to and she ain’t gonna make you feed it or clothe it.”(p. 8)

AlfonsoとMr._のやりとりから、彼らが女性をどのような目で見て、扱っているかが読み取れる。まるで、性の道具や奴隷としてしかCelieをみていない。男性の傲慢さ、そしてそれに従うことしかできない女性の悲しい姿が描かれている。Alfonso や 物語の最初のMr._ の女性の見方は、ユダヤ人哲学者マルティン・ブーバー(Martin Buber,1878-1965)の ”I and Thou” で言う I とIt の関係である。I と It の関係とは「我」と「それ」の関係であって、「それ」は「われ」にとってのモノであることを示している。つまり、代替が利くということである。Alfonso や Mr._ は自分の役に立つ女だったら誰でもいいと思っている。

◆Celieを変えたもの◆

*出会い

    この物語でCelieを変える鍵になるのは、人との出会いだろう。CelieはShugやSofiaをはじめとする人々に出会い、女性について考え始める。今まで、男に虐げられてきた Celieには、これらの出会いは衝撃的であり、後に、Celieに大きな変化をもたらす。

@Sofiaとの出会い

    女性は男性の言うことを聞くのが当たり前と思っていたCelieはSofiaに出会い、衝撃を受ける。SofiaはCelieとは対照的で、男っぽく強くたくましいからである。

“I like Sofia, but she don’t act like me at all. If she talking when Harp and Mr._ come in the room, she keep right on. If they ast her where something at, she say she don’t know. Keep talking.(pp. 35-36)

Sofiaのこのような行動をCelieは煩わしく感じていた。なぜなら、Celieには男に逆らうような度胸も考えもなかったからである。しかし、少なくともSofiaの登場により、Celieは今まで見えてなかった女性と男性の不平等さに次第に目を向けていく。

”Wives is like children. You have to let’em know who got the upper hand. Nothing can do that better than a good sound beating.”(p. 35)

Mr._は女のSofiaの言いなりになっている息子Harpoを見て、Harpoに「男は女をぶって言うことを聞かせるものだ」と教える。また、Celieまでもが ”Beat her”(p. 36) とHarpoにSofiaを殴るよう指示する。しかし、この結果、SofiaはHarpoを置いて家を出て行ってしまう。HarpoはSofiaがいなくなってから、だんだんと男らしく成長していく。これは、今まで女に頼りきりだった男が、女が出て行ったことで自分の無力さに気づき、反省し、自己を改めようとしたのだろう。このような男性の変化の姿は本作の後半Mr._にも見られる。SofiaとHarpoの関係はジェンダーの壁を壊し、Celieに女性の強さや可能性を見せ付けた。

AShugとの出会い

    CelieはShugを初めて写真で見たときから、Shugをreal personと思い、異常な興味を抱く。男性に興味を持てなかったCelieは女性のShugに憧れのような恋心を抱くようになる。そのShugがCelieの家に来てからCelieとMr._は大きく変化し始める。

    まず、Celieは憧れだったShugが家に来たことにより、次第に明るくなり生きる希望を見出したかのように見える。Shugの外見的な美しさにも魅かれていたが、彼女の堂々とした振る舞いや、姿勢がCelieの心を大きく捉えていったからだろう。また、ShugはCelieにとって初めての話し相手だった。夫であるMr._はCelieと話もせず、ただ奴隷のように扱うだけだった。しかし、ShugはCelieを一人の人間として見て、会話をし、Celieの心に灯をともした。

    Shugが家に来てから、変わったのはCelieだけではない。

”Mr._ laugh. I notice aomething crazy in his eyes. I been scared, he say. Scared. And he cover up his eyes with his hands.”(p. 52)

    Mr._もShugが家に来てから、以前よりおとなしくなり、Celieに暴力を振るわなくなっていく。そして、Shugを中心にCelieとMr._の距離もだんだん近づいていく。

“Then I see myself sitting there quilting tween Shug Avery and Mr._. Us three set together gainst Tobias and his fly speck box of chocolate. For the first time in my life, I feel just right.(p. 57)

この場面では、Shug に同じ好意の感情を持つCelieとMr._が、Shugに対する問題に取り組むことにより、2人の結束し始めたことを表している。Mr._の父やTobiasがShugを責めるが、Shugを好きで守りたいという2人の気持ちは同じで、そこには連帯感のようなものが生まれている。とくに、この場面でキルティングをしているのは、ばらばらの布を”quilt”(つなぎ合わせる)ように、CelieやMr._、Shugが1つになっていくところを表現しているのだろう。実際、”quilt”には連帯の意味もあり、作者が意図的にこの場面に”quilt”を用いたと考えられる。

“Oh, Miss Celie, she say. And put her arms round me.”(p. 112)

“Don’t cry, Celie, shug say. Don’t cry. She start kissing the water as it come down side my face.”(p. 112)

“She say, I love you, Miss Celie. And then she haul off and kiss me on the mouth.”(p. 113)

    Shug はCelie を1人の人として見て、接した。Mr._ から普通の人らしい扱いを受けてこなかったCelie にとって、それはとても特別なことだった。先に述べた、マルティン・ブーバーの” I and thou” で言えば、それは I とThou( you)の関係と言えるだろう。IとYou の関係とは「我」と「汝」の関係で、自分と特定の相手のことである。相手はかけがえのない人であって、何者にも換えようがないという意味である。

*家族の団結→女性陣の主張

    Sofiaが暴力事件を起こし、逮捕されたとき、家族はSofiaを救い出そうと一致団結する。最初の頃は女性のこととなると非協力的だった Mr._ やHarpoもSofia を救い出す作戦を積極的に考え始める。ただ、ここで1つおもしろいことは、女性陣は現実的なアイディアを出しているのに対して、男性陣はダイナマイトを使うなどと非現実的なアイディアを出していることである。それは、どこかで、男性は見栄っ張りなだけで女性と比べたら役に立たないことを表しているのではないだろうか。実際、Sofia を助けに刑務所に行ったのはSqueak であったことからもそう言えるだろう。

    また、この場面辺りから、女性陣が意見を主張する姿が目立ってくる。Harpoの言いなりだったSqueakも刑務所から出てから、強くなったように思われる。”She stand up. My name Mary Agnes, she say”(p. 97) HarpoはSqueakに「愛してる」と言いつつも、彼女のことを本名では呼んでいない。Squeakは、そんなHarpoに嫌気が差したのと、男性の小ささに気づき、自己主張を始める。この場面は、女性が次第に強くなってきていることを表しているのだろう。

*Pants(ズボン)の意義

    この作品では、以前は男の象徴であったとされる ”pants” がキーワードの一つになっている。Celieはpantsは男が履くものと決め付けていた。Shugがpantsは男だけのものじゃないことをCelieに教えてから、事態は大きく変化する。”pants” を履くことにより、次第にCelieは強くなっていく。最後には ”pants” を製作し、それらを売って生計を立てるようにまでなる。それは、ただ単にCelie が自立したことを示しているのではなく、Celie がジェンダーの壁を乗り越え、男性から解放されたことを伝えているのだろう。

“I am so happy. I got love, I got work, I got money, friends and time. And you alive and be home soon. With our children.”(p. 215)

    今まで、暗く、卑屈だったCelieがまるで別人のように生き生きしていることが、文章から読み取れる。家を出て、自立したことによって、男性に打ち勝ち、生きる希望を見出したのだ。

*女性からの解放

    この物語でのもう一つの重要なポイントは、女性を虐げてきた男性も最後には女性から解放されているということだろう。先に述べたHarpoがその良い例である。最初HarpoはSofiaに頼りきりだったが、取り残されたことにより、自立し始める。また、Mr._について言うと、彼も最後には女性から解放されている。女性に頼って生きてきた彼は、Celieをモノのように扱い、自分の傍にいるのが当たり前だと思っていた。しかし、そんなCelie に突然突き放されたことで、Mr._ は路頭に迷う。その後、Mr._ はHarpoのアドバイスを受け、Nettieの手紙をCelieに返すことで、長年の罪悪感から解放される。それと同時に、きちんと働き始め、自立した生活を送るようになる。これは、まさに男性が女性から解放されたと言えるだろう。

*妹(Nettie)との再会、本当の家族

    ジェンダーの壁を乗り越え、自立したCelieの元に、Nettieが子供たちと共に帰ってくる。男性から解放されたCelie、そして女性から解放されたMr._の前に現れた幸せで平和な光景だろう。Nettieたちが戻ってきたことにより、CelieやMr._は性差だけでなく、様々なものから真に解放される。

    最後に。。。

    この物語のテーマの1つであるジェンダーの問題は、Celie の心身的な成長とともに解決の方向に向かっていく。Celieを変えたもの、それはやはり様々な人との出会いだろう。CelieはSofia やShugとの出会いから男尊女卑社会がおかしいものだと気づき始める。それから、ShugやSofiaの生き方に影響され、次第にCelie自身の考え方や行動が変化していく。この物語では、最終的にCelie がpantsを作り、自立することを通して、女性の男性からの解放を描いている。

    また、この物語のもう一つのテーマとして、男性の女性からの解放も挙げられるだろう。女性を虐げ、威張って生きてきた男性も、女性の協力なしでは生きていけなくなることもある。

    つまり重要なことは、男性だろうが女性だろうが一人の人間として、自分の意見を持ち、考え、行動することが「生きる」ということなのだろう。生きていくことに性別なんて関係ないのだ。人々が”I and Thou”の関係を保っていくことが大切なのだ。


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