Seminar Paper 2009

Hitomi Enei

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

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The Great Gatsby とMoney
〜お金に求めるもの〜

     The Great Gatsbyでは、豪華絢爛なパーティーや財力の程を表す大邸宅が印象的である。贅沢の極みが描かれたこの物語を読み進めていく上で、欠かせないキーワードが「お金」である。それぞれの登場人物の、お金に対する価値観や意識が描かれている。  この小説の中で、お金という存在は ‘ incarnation’(p. 118)のように夢や憧れと等しいものだと言えるだろう。その夢は現実味のない空想に近いものかもしれないし、あるいは手放すことができないほどに浸りきって抜け出せないものかもしれない。いずれにせよ魅力をたっぷりと含んだ夢そのものである。その「お金」がどう捉えられているのかを、金持ちに憧れる人々、元々手に入れている人々、苦労して手に入れた人々という3つの立場に分けて見ていこうと思う。

   

    まず、金持ちに憧れる立場としてMyrtleを見てみる。Tomの浮気相手として登場するMyrtleは自分の旦那を目下にし、夫婦関係に不満感を抱いていおり、Tomと一緒にいることで日常の生活から抜け出し、普段では味わえない金持ちの生活に浸れることを喜んでいる。 “ ‘ I’d like to get one of those police dogs’ ”(p. 33) と言って急に子犬をねだったり、 “ ‘I’m going to give you this dress as soon as I’m through with it.’ ” (p. 42) というようにドレスに執着しない様子を装ったり、 “ ‘I’m going to make a list of all things I’ve got to get.’ ” (p. 42) と言って思いつく限りのお金の使用方法を挙げてみたりと、Myrtleはお金がある立場を存分に満喫していて、さらにTomと自分の家に妹や友人を集めることで、金持ちがするようなパーティーを開催する主催者になってみたりと、見栄を張りたい様子を知ることができる。  

    金持ちの幸せを少しだけでも知ってしまったMyrtleはTomの浮気相手でいることに満足できなくなり、本当の妻になりたいという希望を持っていたのだろう。お金のある世界に夢を見た彼女は、自分が置かれている、情けない夫と一緒という現実の世界に耐えられなくなってしまった。そんな彼女を、夫のWilsonは “ ‘ I’ve got my wife locked in up there.’ ” (p. 143)という形でしか止められず、後に物語の悲劇を招くきっかけとなっていく。

    Tomの浮気相手になったことで金持ちという立場にいれる自分に喜びを感じるとともに、Tomについてくるお金に対する見栄や欲望が生まれ、 “ on Myrtle Wilson’s face it seemed purposeless and inexplicable ”(p. 131) と、嫉妬に狂う彼女を生むことになった。「お金」を手に入れる前の人々はそれに憧れを持ち、手に入れようと必死になり、狂気じみた行為もしてしまう。Myrtleはお金のある生活を味わってしまった以上、その思いから抜け出せずに手に入れることばかりを夢に描いていた。お金があれば幸せになれると信じきっていた彼女の行為が実際の生活を崩壊させ、果ては彼女自身にも不幸が起こるきっかけとなってしまったのである。

    

    2番目に、TomやDaisyのように、お金を得ることの苦労を知らずに生まれたときからお金があふれている中で生きてきた、 “ enormously wealthy” (p. 12)な人々の立場を見てみる。GatsbyとNickがDaisyの家を訪ねたときに、彼女が自分の家でのびのびと思うままに発言する姿を見たあとで、Gatsbyが “ ‘Her voice is full of money. ’ ”(p. 126) と言っている。

It was full of money--that was the inexhaustible charm that rose and fell in it, the jingle of it, the cymbals’ song of it… High in a white palace the king’s daughter, the golden girl… (p. 126)

    以前からDaisyの声に魅力を感じていたNickは、Gatsbyの言葉を聞いて納得したのである。お金があるがゆえの魅力のある声や立ち居振る舞い。それが当たり前にDaisyに染み付いている魅力である。
一方で、GatsbyのOld sportという口癖やかしこまった態度は、 “I was looking at an elegant young rough-neck, a year or two over thirty, whose elaborate formality of speech just missed being absurd.” (p. 54)と、このように初めて出会ったNickにけなされてしまっている。 “GENERAL RESOLVES” (p. 180) を掲げ、熱心にこなしてきたGatsbyでも、生まれたときから染み付いているお金持ちの風格や魅力を本当に手に入れることは難しかったようである。
しかし、そんな彼らのお金に麻痺した感覚はGatsbyやNickとは根本から違っていた。

They were careless people, Tom and Daisy--they smashed up things and creatures and then returned back into their money or their vast carelessness, or whatever it was that kept them together, and let other people clean up the mess they had made… (p. 186)

    Tomは自分が起こした悲劇のそもそもの種、Myrtleとの浮気のことを棚に上げ、その後も平然とお金の溢れた日々に戻っていくだけだった。Daisyについては、彼女がGatsbyの死に対してどういう反応を示したのかがわかる描写はまったくないが、事故を起こした車を運転していたのは彼女自身だという事実を誰か他の人間に伝えることはなかった。そうやって彼らは、自分たちの原理といえるお金のある生活を、それまでと変えることなく続けていくのであろう。もはやその生活から抜け出すことは不可能で、当たり前に存在するお金というものが、彼らにとっては今後も当たり前にあるものなのである。そんな彼らに対して“ ‘ They’re a rotten crowd’ ”(p. 160)とNickは叫んでいる。

    しかしenormously wealthyな人々は彼らなりの空虚さを持っている。特にDaisyはTomの浮気のことが原因で “ ‘What’ll we do with ourselves this afternoon, and the day after that, and the next thirty years?’ ”(p. 124) と発言したり、自分の娘に対して “ ‘I hope she’ll be a fool’ ”(p. 24) と、Daisyのいる世界で暮らすためには女の子はかわいくバカでいることがいちばんいいことなんだと言っている。そういった空虚さを埋めるかのように、Daisyは金にまみれた魅力的な声でGatsbyを虜にし、昔のようなときめきを思い出して楽しんだりしている。他の金持ちたちは、派手に着飾って開催主の知らないようなパーティーに参加したり、浮気相手を喜ばせるために豪華なプレゼントを贈ったりする。お金を利用することで一時の夢を得て、お金がある生活を当然のごとく送り、いわゆる “ the most advanced people” (p. 24) としての彼らなりの感覚でお金を使っていくのだろう。

   

    最後に、自らの努力で財を成した人々の立場から見てみる。この物語の舞台となっているNew Yorkは “ built with a wish out of non-olfactory money” (p. 74) といったうさんくさいお金で堂々とできている街である。この街は “ a dead man passed us in a hearse heaped blooms” や、“ a limousine passed us, driven by a white chauffeur, in which sat three modish negroes” (p. 75)というように、お金に散った者や成功した者など、金持ちになるという夢を持ってやってきた人々が集まる街である。

     Gatsbyもその内の一人である。そして誰よりもお金を手に入れるという思いが人一倍強い人物でもあった。一代で財を成したとは考えられないほどの豪邸を持ち、どうやって成功者の道を辿ってきたのかを知る者はほとんどいなく、それゆえにGatsbyについて噂をし合っては彼を敬遠していた。初めてNickを食事に誘った時、Gatsby自身は様々な経験を積んでここまで来たと言い切ったが、それはまるで “ turbaned ‘character’ leaking sawdust at every pore as he pursued a tiger through the Bois de Boulogne”(p. 72) のようで、Nickは到底信じることができない内容だった。その時のGatsbyは、どうしてもNickにDaisyと会う手はずを用意して欲しかったがために、Nickの信頼を得ようとして自身を着飾ったのであった。実際には裏社会で得た金がほとんどで、頭の切れるGatsbyは裏社会で重宝されていた。そんなGatsbyを真の成功者と呼ぶことはできないが、その部分がGatsbyの欠点でもあり、反対に “a rotten crowd”の一部にならずに済んだ理由だと言える。

    裏社会に手を出してまでお金を手に入れようとしたGatsbyを駆り立てた原因はDaisyだった。5年前に出会って恋をしたDaisyを取り戻すために、金持ちになることを目指し、様々な経験を経てきたGatsbyはどんな手段であれ富を手に入れることができ、最後にはDaisyを自分のものにすることも当然叶うことだと信じきっていた。 “ ‘ Can’t repeat the past?’ ‘Why of course you can!’ ”(p. 117) と、Daisyと一緒だった過去を取り戻すことが叶わないことだとは考えもしていなかった。しかし感覚の違うDaisyはGatsbyの考えとは違って “ ‘ Oh, you want too much!’ ‘ I love you now--isn’t that enough? I can’t help what’s past.’ ” (p. 139) と言うように、彼女は自分の生活を崩す考えはなかったのである。Gatsbyはこれ以降、自分だけが思ってきた夢だったのだと薄々自覚することになる。金持ちになるために努力をして、強い精神を保ってきたGatsbyの中には常にDaisyという目標があり、事故が起きた後も想いは消えることなく、彼女を守るために彼は犠牲となったのである。

   

    以上の3つの観点から、この小説の中でのお金という存在は、異なる立場にいるどの人々にとっても夢を含んでいるものであることがわかる。その夢が憧れに近いものなのか、日々のすきまを埋めるための夢なのか、もしくは夢が叶ったことで他に叶わないものがあるはずがないというような錯覚を生むものなのかは、立場の違いによってさまざまである。


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