・序論

  　私はこの作品を読み終えてまず感じたことは、作者であるF. SCOTT FITZGERALDのお金に対するあこがれというか憎悪というかそのようなものである。FITZGERALDを調べてみると、彼はお金に苦労する生活を送っていたようだ。また、それが原因で婚約を解消されるという事件も起きている。つまり彼はお金に対して強い感情を抱いていたのではないだろうか。このことから私はこの論文で、作者はこの作品を通して「お金、またはお金持ちへのあこがれと憎悪」を伝えたかったのだと仮説を立てて論じていくことにする。

    ・本論

    本論では、主な登場人物を上流階級とそうでないもの、そしてGatsbyに分けて、それぞれのキャラクターがお金とどのように関わって、作中どのように描かれているのかを論じていくことにする。

    　上流階級（Tom, Daisy）

    まずTomは、華やかなイーストエッグに住んでおり、生粋のお金持ちというイメージであるが、この作品を読んだ読者はおそらく彼を嫌いになるのではないだろうか。私もその一人である。Tomの性格は自分勝手で高慢である。二章でのWilsonへの態度を見てもそのことはわかる。高慢そのものだ。妻であるDaisyに対しては、自分はMyrtleと不倫をしているにも関わらず、DaisyとGatsbyがいい関係になりそうになると不機嫌になるという自分勝手ぶりも見せる。最後GatsbyがWilsonに殺されてしまうのもこの男が原因のようなものである。このように作者が彼を描いた理由は、お金持ちはこんなにも悪いやつなのだということを印象づけ、読者にTomを嫌ってほしかったからではないだろうか。だとしたら私には大成功である。また、Tomに関しては以下のことも考えた。次の英文を読んでいただきたい。

‘Civilization’s going to pieces,’ broke out Tom violently.
‘I’ve gotten to be a terrible pessimist about things. Have you read “The Rise of the Coloured Empires” by this man Goddard?’
‘Why, no,’ I answered, rather surprised by his tone.
‘Well, it’s a fine book, and everybody ought to read it. The idea is if we don’t look out the white race will be--will be utterly submerged. It’s all scientific stuff; it’s been proved.’
‘Tom’s getting very profound,’ said Daisy, with an expression of unthoughtful sadness.
‘He reads deep books with long words in them. What was that word we - ’
‘Well, these books are all scientific,’ insisted Tom, glancing at her impatiently. (p. 19)

He looked at me keenly, realizing that Jordan and I must have known all along.
‘You think I’m pretty dumb, don’t you?’ he suggested.
‘Perhaps I am, but I have a--almost a second sight, sometimes, that tells me what to do. Maybe you don’t believe that, but science - ’ He paused. (p. 127 - 128)

   次はDaisyについて論じていこう。彼女は自分がMyrtleを轢き、Gatsbyが殺された原因を作ったにも関わらず葬式にも顔を出さなかったところをみると、Gatsbyとの関係は不倫していたTomへの対抗心、または遊びだったように感じる。結局はDaisyもTomと同様、読者に良い印象を与えないキャラクターになってしまい、上流階級の彼女への作者の憎しみが表れているようだ。また、Daisyについては次の英文に注目してほしい。” ‘You make me feel uncivilized, Daisy,’ I confessed on my second glass of corky but rather impressive claret. “ (p. 19)　ここから、つまりDaisyはcivilized、文明化された教養された人物であるということだ。ということは、先ほどのTomとGatsbyの図式に当てはめるとDaisyはTom側に当てはめることができるのである。対極であるGatsbyとDaisyは元々結ばれる運命ではなかったのだ。作者のFITZGERALDが自分をGatsbyに当てはめ、FITZGERALDの収入に不安を抱き婚約解消された恋人をDaisyに当てはめることで、満足な収入を得られない自分に劣等感を持ち、お金に対するあこがれを表現しているのではないだろうか。

    　上流階級ではない（Wilson、Myrtle）

    WilsonとMyrtleは共に悲惨な最期を遂げることになる。TomとDaisyは生きているのに対して、この二人（Gatsbyも）が死んでしまうのは、作者のお金がなければ待っているのは悲惨なものなのだというメッセージが込められているように感じる。Wilsonは生きている間もTomに対して常に商売の話をするなどお金に困っていて、さらにMyrtleに浮気されてしまうのだから余計悲愴感を増している。Myrtleは二章でTomという財布を手に入れた瞬間、突然犬を買ったりするなどお金持ちのような尊大な態度をとり始める。お金というものは、人の態度を大きくしてしまう力を持っていることが伝わってくる。

    　Gatsby

    Gatsbyは百姓の息子からお金持ちへと駆け上がるが、お金持ちになったからといって彼は幸せになれたかというとそうではない。彼にとってのハッピーエンドはDaisyと結ばれることであったが、夢叶わず、さらに死亡してしまうというからなんとも悲劇的だ。このこと以外からもGatsbyが幸せでなかったと思わせる場面がある。例えば彼が頻繁に開くパーティーである。このパーティーはDaisyが来るのではないかという期待を込めて開いたものである。Gatsbyは自分には莫大なお金があるので盛大なパーティーを開くが、そこに来る人の中には上流階級の人はいない。自分がお金持ちであることをアピールするかのようなこのパーティーが、皮肉にも自分が上流階級ではないことを物語ってしまっているのだ。このようなところにもGatsbyの悲劇的な要素がふくまれている。また、彼はお金にあこがれているようなところがある。” ’My house looks well, doesn’t it?’ “ (P. 96)　ここから彼がお金持ちになれて嬉しいといった様子が伺える。さらに “Gatsby said, ‘Her voice is full of money.’ ” (p. 126)　というとこからはDaisyがお金に満ちているということを指していて、Gatsbyは彼女に恋をしてあこがれている＝お金にあこがれているということを意味しているように感じる。しかしお金にあこがれるのだが、Daisyのような上流階級にはなれないという劣等感も感じる。このようなところからもGatsbyの悲劇さが伝わる。このようにして、作者はお金を持つことの虚しさと同時に、お金に対してのあこがれを伝えようとしているのではないだろうか。

    ・結論

    本論で述べたように、上流階級を悪く描くことでお金持ちへの憎しみ、上流階級でないものを悲惨に描くことでお金がないものの悲惨さ、Gatsbyからはお金へのあこがれとお金を持つことの虚しさが作者から伝わってくる。よって私の仮説は妥当であると主張したい。あこがれと憎悪は一見相反するようだが、この作品から相容れるものだということがわかった。