Seminar Paper 2009

Fujita Midori

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

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The Great Gatsby とMoney
Moneyが引き起こす悲劇

<この物語における「お金」の位置づけ>
 そもそものお金とは、生きていくために必要なものであるが、私たちは、お金によって一喜一憂し、また、人の心を動かし、人生までもを左右してしまう恐ろしいものである。  この話の中でのお金とは、上流階級、いわゆる金持ちたちにとってのお金である。私たちは皆、お金持ちになりたいと願っている。上流階級の彼らも、お金を持っていれば持っているほど幸せになれると信じている。一見、たくさん持っていると幸せであるかのように見えるが、実のところ、お金とはまさに悲しいものであることが、この作品を通して感じられる。また、お金は真実をも曲げてしまう。この作品の中で言えることは、お金が絡んでさえいなければ、GatsbyとDaisyは一緒になれたであろうということである。皮肉なことに、あればあるほど幸せに見えるお金は、同時に、あればあるほど不幸になってしまうものであるとも言える。

    本来のお金の役割に結び付けて考えてみたいと思う。結論から先に言ってしまうと、「お金はものから心を引きはがしてしまう」ということである。お金というものが存在していなかったころは、物々交換によって成り立っていた。今でもそれは「プレゼント」という形で、私たちの生活の中にある。これは、贈る人と受け取る人の間にお金が媒介することはない。しかし、現代社会においては、ものがスムーズに流通するように、「お金」という媒体が必要となる。「買う」という行為は、それによって物を受け取っても、お金を払ってしまえば相手が返礼をする必要はないのである。そのことから、お金には物から心を引きはがす力があるといえる。 この作品においては、お金そのものではなく、お金を基としてできあがった階級がカギとなっている。お金を自由自在に操ることのできる上流階級の人たち(お金持ち)が、お金によって人生を左右されたり、左右させたりするため、彼らはお金に心を引きはがされていると言うことができるのではないかと、私は思う。そのことが、世の中がお金に翻弄されている理由につながるのである。ここで、登場人物たちのお金の認識と階級に対する意識の関係について考えてみる。

<階級意識>
    人々は、家柄はもちろんお金をどれだけ持っているか、どれだけお金持ちとして人気があり顔が広いかによって階級に位置づけらている。この作品の中で、階級差を意識し、また、自分のいる階級をしっかり認識しているのはNickであると思う。なぜなら、上流階級のTomやDaisyと付き合いながらも、“It’s a libel.   I’m too poor.”(p. 26)と結婚の常識を踏まえていたり、“Their interest rather touched me and made them less remotely rich”(p. 26)と、自分は上流階級の人間ではないことに対し、気後れのようなものを感じていたのだというところからわかる。また、“The supercilious assumption was that on Sunday afternoon I had nothing better to do.” (p. 30)と上流階級の人間にとっては自分なんかどうでもいい存在なのだ、という思いもほのめかしている。 もう一人、自分の階級をしっかり認識している人物がいる。Daisyである。NickがDaisyについて“It seemed to me that the thing for Daisy to do was to rush out of the house, child in arms--but apparently there were no such intentions in her head.” (p. 27)と述べている点から、Daisyは本当はTomのことを愛していなかったとしても、Gatsbyの元へは行かず、お金も権力も持っているTomの元にいたほうが幸せになれるとわかっており、それがこの階級社会における結婚であることに加え、自分の階級の位置づけも理解していることがわかる。  

<金持ちの典型>
    この作品での金持ちたちは、裕福な家柄のため金遣いが荒く、招待されてもいないパーティーへ、ただGatsbyの名前を知っているというだけで行ってしまうような、分別のない人間として描かれている。その中の一人としてTomが、Mrs. Wilsonに子犬を買ってあげ、老人にお金を与えるという場面、またGatsbyに自分の車を貸すという場面がある。この、金を惜しみなく人に与えるたり、人に気兼ねなくものを貸すというところは金持ちの典型であるといえる。さらに、TomとDaisyが引越し先を決めるには、富裕階級が集まっているところならどこだっていいと考えているようであることもまさに富裕層らしい。その中で、Jordanは一見、有名であったり、お金を持っていることを鼻にかけていないように見える。しかし、借りた車を駄目にしてしまったことで嘘をついたり、ゴルフトーナメントでのスキャンダルをもみ消したりと、内面的にはほかの者と同じような上流階級らしさというものが、少なからずあることに少しがっかりしてしまった。同じくNickもJordanに対し同じようなことを思っていたようである。

<金持ちではないことの表れ>
    逆に、この作品で金持ちらしさが現れていないというのはどういうことか。GatsbyとNickに焦点を当てて考えてみる。Gatsbyは車や家の自慢をする、数多くの勲章を見せる、名のある人たちをパーティーに招待して、顔が広い・顔が利くことを見せ付ける、などして金持ちで家柄も良い男というように見せているが、本当のところは、つまり内面は、金持ちになりきれていないのである。そのことは、Tomに車を貸すのを渋り、物を大事にする面や、言葉だけの誘いを断ることができず、マナーや教養のない人間だと思われてしまう、といったような部分に表れている。また、上流階級の人間にはほぼ見られない謙虚すぎる面が以下に表れている。

“The modesty of the demand shook me.   He had waited five years and bought a mansion where he dispensed starlight to casual moths--so that he could ‘come over’ some afternoon to a stranger’s garden.
‘Did I have to know all this before he could ask such a little thing?’
‘He’s afraid, he’s waited so long.   He thought you might be offended.   You see, he’s regular tough underneath it all.’”(p. 85)

    Nickに関しては、自分の階級を認識していると先に述べたが、お金持ちになりたいという欲がない。例えば、“I had a view of the water, a partial view of my neighbor’s lawn, and the consoling proximity of millionaires.”(p. 11) や、“It was hard to realize that a man in my own generation was wealthy enough to do that.” (p. 12)のように上流階級の人間の存在を、あこがれよりも遠いものとしてみている。また、Nickは “simultaneously enchanted and repelled by the inexhaustible variety of life.”(p. 42)という考えを示している部分から、階級によっての人生の多様性、それによって人はまったく違う考え方を持ったり、まったく違う人生を送っていると、人間の多様性・階級の差を客観的に見ている。つまり以上の点から、作品の中でこの二人は、階級の差をより際立たせるために置かれた、キーパーソンであると、私は見ている。

<「愛」か「お金」か>
    この二つの選択は、自分の位置づけられている階級によって決められる。それは結婚というものが目の前に迫ると人はがらりと変わってしまうという意味も含められている。 “I almost made a mistake, too… I almost married a little kyke who’d been after me for years.   I knew he was below me.   Everybody kept saying to me: ‘Lucille, that man’s ‘way below you!’ But if I hadn’t met Chester, he’d of got me sure.”(p. 40) Mrs. McKeeはここで、結婚の際、男性は女性より階級が上でなくてはならないというのが常識であることを、自分の経験を通して語った。そしてそれに対しMrs. Wilsonは今の夫との結婚は「非常識」で「間違い」であったと嘆いているのである。つまり、ここではっきりと、結婚は愛でなくお金であると断言されてしまっている。また、女性が男性を見るとき、金持ち=いい人、と表現されている点からも判断できる。 そんな中、“What I say is, why go on living with them if they can’t stand them? If I was them I’d get a divorce and get married to each other right away.”(p. 39)から、Mrs. Wilsonの妹のCatherineは階級を意識していないことがわかる。しかし、実際に彼女は上流階級の人間ではないが故に、このように考えるのである。 つまりこの作品での女性たちは、お金を持っていて、権力のある人が素敵に見えてしまう。そして、あたかも愛しているかのような錯覚に陥ってしまうのではないかと考える。実際、DaisyはTomという人そのものに惚れてしまったのではないからである。   

<階級における自分の規定>
    私たちは、いつも他人との優劣を確認することで自我を確立している。たとえば、私は彼より頭がいいとか、彼より交友が広いといったように自分を規定している。この話では、上流階級での自己の確立が主であり、その中での自分の規定は、大まかに言うと、どれだけお金を持っているかと、どれだけ家柄が良いかである。Gatsbyは、そんな世の中に生きる人々の良い手本であると同時に、悪い手本にもなってしまっていると言える。 まったくの別世界に住むDaisyに恋してしまったGatsbyは、生まれがたまたま下層階級であったがために、Gatsbyという別の自分を作り出して上流階級へと乗り込み、Daisyという目標のために人生をつぎ込んだのである。Gatsbyに変身することで、また、お金持ちであることを見せ付けることで、あたかも自分は上流階級の人間であるように見せかける。さらにその中でも自分が他者よりも目立った、優れた存在、つまり結婚相手にふさわしい男であることをDaisyに証明しようとしているのである。しかし、彼のその血のにじむような努力もむなしく、Tomという大敵にことごとく敗れてしまう。これは、人は生まれながらにして運命は決められているということを、嫌というほど私たちに突きつけているように感じられる。本当の彼はJames Gatsなのであり、生まれながらに運命付けられた階級は、どう隠そうとも、変えられることはほぼ不可能であるということ。

“Every one suspects himself of at least one of the cardinal virtues, and this is mine: I am one of the few honest people that I have ever known.”(p. 66) “A sense of the fundamental decencies is parcelled out unequally at birth.”(p. 7)

    この二つのことばは、この物語の全てを語っていると私は思う。この作品を読み切ったあと、内容を把握し理解しまた読み返すとこれらのことばが目についた。この「The Great Gatsby」を読んだ後にこのことばを聞くと、思い通りにはいかない人生の儚さと、お金がすべてである世の中の虚しさが、より一層しみじみと感じられる。「The Great Gatsby」は私たちに、お金に限らず、欲というものが人をだめにしてしまうのだということを、Gatsbyの犠牲を通して教えてくれたのである。


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