Seminar Paper 2009

Kondo Manami

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

Back to: Seminar Paper Home

The Great Gatsby とMoney
お金と愛、どっちを選ぶ?

    この「The Great Gatsby」という話は、百姓の家に生まれ、裕福ではない家庭で育ったGatsbyというある男が自身の持つ、アメリカンドリームのために人生を捧げる物語である。 私は、この話では「お金」という観点が、登場人物たちの価値観を支配しているのではないかと考えた。そこでこの話を、登場人物たちが持つ価値観を、「お金」という観点から見てみようと思う。

    <Gatsbyの価値観>

    百姓の両親から生まれてきたJames Gatzの家は、当然のように裕福な家庭ではなかった。 自分の家は裕福ではない、上流階級ではないという事実が、少年James Gatzにとってはとても許し難いことであった。それは以下の所で分かる。 “His parents were shiftless and unsuccessful farm people−his imagination had never really accepted them as his parents at all.” (p. 105) そのため、少年James Gatzは、上流階級であるということに並はずれた憧れを抱くのだ。また、自分の社会的地位を何とかして上流階級へと変えようと努力し始める。その過程の一つとして、彼は自分の名前を変えてしまうのだ。

He had changed it at the age of seventeen and at the specific moment that witnessed the beginning of his career−when he saw Dan Cody's yacht drop anchor over the most insidious flat on Lake Superior. (p. 104)
貧乏な家の育ちであるJames Gatzの名を捨て、自分の憧れを手にするための名前Jay Gatsbyを名乗り、上流階級の人が持つべき上品さを身につけるのだ。このようなGatsbyの過去から、Gatsbyにとって「お金」とは、「この世のすべて」であり、「人間の幸せそのものである」と考えていたのではないか。

    そんな中、Gatsbyの人生の転換期が訪れる。Gatsbyは上流階級の娘Daisyと出会い、恋に落ちるのだ。Daisyは生粋の上流階級の出であったし、Daisyの声には「お金」の匂いがプンプンしていた。

'Her voice is full of money,'
he said suddenly. That was it. I'd never understood before. It was full of money−that was the inexhaustible charm that rose and fell in it, the jingle of it, the cymbal’s song of it… (p. 126)
また、Daisyの世界はGatsbyにとって、「お金」そのもののような世界であり、全く未知の世界であった。
It amazed him−he had never been in such a beautiful house before. But what gave it an air of breathless intensity, was that Daisy lived there−it was as casual a thing to her as his tent out at camp was to him. There was a ripe mystery about it, a hint of bedrooms upstairs more beautiful and cool than other bedrooms, of gay and radiant activities taking place through its corridors, and of romances that were not musty and laid away already in lavender but fresh and breathing and redolent of this year’s shining motor-cars and of dances whose flowers were scarcely withered. (p. 154)
これらのように、存在しているだけで「お金」を象徴するようなDaisyは、上流階級に並外れた憧れを抱いていたGatsbyにとっては、とても魅力的に映ったのであろう。しかしDaisyは、Gatsbyが戦争に行って長い間離れ離れになってしまったことで、大金持ちであるTomと結婚してしまう。後日その事実を知ってしまったGatsbyは、TomからDaisyを奪い取るにはTomと同じくらい大金持ちになれば良いと考えたのであろう、様々な方法で大金持ちになろうとした。その方法が、例え裏社会へと手を染めることだったとしても。結局Gatsbyにとって、Daisyを手に入れるために大金持ちへとなるための手段は、何だって良かったのだ。このことからもGatsbyにとって「お金」とは、「この世のすべて」だと思っていることが分かる。

    ともかくそうやって大金持ちになったGatsbyは、Daisyの家の近くに自身の家を購入し、TomからDaisyを奪おうと試みる。毎晩のように豪華なパーティを開くことにより、Daisyが自分の存在に気づくのではないか、そして実際に自分のパーティに来たDaisyは、また自分のところに帰って来るのではないか、という期待と確信を胸に抱きながら。

    ところが実際は、何とかしてDaisyを自身のパーティに来させることはできても、Daisyを楽しませることはできなかった。このことをGatsbyはとても悲しく思う。前に述べたように、豪華なパーティを開いて「お金」を持っていることを見せつければ、Daisyはもどって来る、「お金」があれば、Daisyを取り戻せる、とGatsbyはそう安易に思っていたからだ。むしろGatsbyは、Daisyはなぜ分かってくれないのか、お金はあるのに、と疑問にさえ思うくらいだった。結局Gatsbyは、Daisyのことを「お金」という観点でしか見ていないのである。

    以上のことから、Gatsbyの価値観は、「人生は金」であり、「お金」は「この世のすべて」であり、「絶対的な存在」であることが分かる。

    <Daisyの価値観>

    Daisyは生まれつき上流階級の家で生まれ育ち、若い頃にはいろんな男と遊んだりしている内に、Gatsbyと出会う。その当時はDaisyなりに本気だったのであろうが、Gatsbyが戦争へ行ってしまったことで、長い間離れ離れになってしまったことをきっかけとして、のちに生まれつき大金持ちのTomと結婚する。そんなDaisyが「お金」に対して執着心を持っているかどうかは、DaisyのGatsbyに対す態度からうかがえる。

    DaisyとGatsbyが再会してから、DaisyはGatsbyのことを再び好きになったのではないかと思わせるような態度をとる。これはGatsbyのこと自体を好きになったというよりは、Gatsbyの持つ「お金」に興味を持ったのではないか。それは次の部分からうかがえる。

Suddenly, with a strained sound, Daisy bent her head into the shirts and began to cry stormily.
'They're such beautiful shirts,'
she sobbed, her voice muffled in the thick folds.
'It makes me sad because I've never seen such−such beautiful shirts before.' (p. 99)
これはGatsbyにはイギリスに、毎シーズンシャツを買って送ってくれる友人がいる、という話をした後、DaisyとTomに、自身のシャツを見せているところで、Daisyが急に泣き出してしまう、というところである。 DaisyはGatsbyにはイギリスに、毎シーズンシャツを買って送ってくれる友人がいるということを知り、Gatsbyがお金持ちであるということを見出し、Daisyは泣いてまでしてGatsbyのお金持ち具合に対して感動するのである。その後のDaisyは、Gatsbyに対して思わせぶりな態度をとり続ける。
They had forgotten me, but Daisy glanced up and held out her hand; Gatsby didn't know me now at all. I looked once more at them and they looked back at me, remotely, possessed by intense life. Then I went out of the room and down the marble steps into the rain, leaving them there together. (p. 103)
すっかり前のようにGatsbyに夢中になったとみられたDaisyだが、TomとGatsbyがDaisyを巡って口論した際に、TomがGatsbyの経歴(=Gatsbyは裏社会の人間であり、裏社会の仕事で大金持ちになったということ、実はTomやDaisyのように生粋の大金持ちなどではなく、成り上がりであったということ)を暴露してしまう。するとDaisyは、再びTomのところに帰ってしまう。

    Gatsbyの価値観と同じく、結局Daisyにとって、「お金」はすべてであるということが分かる。ただGatsbyの価値観と少し違うのは、Daisyはただ「お金」があれば良い、というわけではなく、その「お金」はちゃんと正しい仕事によって得られたものである、ということである。少なくてもDaisyにとっては、Gatsbyのように裏社会に染まった「汚いお金」では駄目なのである。だからGatsbyは一旦Daisyを取り戻せたかのように見えたが、最終的に「正しいお金」を持っているTomに負けてしまうのである。皮肉にも、「お金」の種類などどうだって良い、ただ「お金」さえあれば、という考えで上流階級にまで必死に上り詰めたGatsbyにとっては、Daisyの「お金」に対する、というより「お金」の「質」に対する執着心までは、見抜けなかったのである。

    さらにいかにDaisyが「お金」に執着しているかが分かるのは、DaisyがMyrtleを轢き殺してしまってから、GatsbyはDaisyをかばってくれたのにも関わらず、DaisyはGatsbyに罪をなすりつけてTomと一緒に逃げてしまったことである。

I called up Daisy half an hour after we found him, called her instinctively and without hesitation. But she and Tom had gone away early that afternoon, and taken baggage with them. (p. 171)
Daisyは、Gatsbyは自分をかばってくれたのにも関わらず、Gatsbyと自分が関係しているとバレてしまったら、自分がMyrtleを轢き殺した新犯人だということが分かってしまい、自分は逮捕されてしまう、と恐れてさっさと逃げってしまったのだろう。このことからDaisyは、「正しいお金」だけを望んでいたのではなく、さらに社会的地位を欲しがっているということが分かる。また、DaisyはGatsby自体にではなく、Gatsbyの「お金」にだけ、かつて惹かれていたということが再確認できる。

    以上のことから、Daisyの価値観は「「正しいお金」と「社会的地位」がすべて」であることが分かる。

    <Myrtleの価値観>

    Myrtleは「灰の谷」で気弱で貧乏な夫と暮らしているが、実はそんな生活には嫌気がさしている。というのも、最初Myrtleは夫のGeorgeのことをgentlemanだと思って結婚したのだが、実際はMyrtleの予想とは裏腹に、Georgeは貧乏な上に、自分の結婚式に着るためのスーツを人に借りてすませてしまう、そんな男であった。しかしどんなに夫Georgeとの生活が嫌でも、同じく「お金」がなかったMyrtleには、自力でその生活を抜け出すなんてことはできなかったし、そのためのチャンスだって巡って来なかったのだ。Myrtleにとって、この世の幸せは「gentlemanとの裕福な生活」だと思っていた。

    そんな中、Myrtleは上流階級のTomと出会う。これがMyrtleにとって人生最大のチャンスとなったのだ。もちろんMyrtleはTomと不倫関係を築き、上流階級の持つ、特有の贅沢な生活を満喫する。そのうちにMyrtleは、自分がただの不倫相手であるという位置づけには満足できなくなってしまい、自分がTomの妻になりたい、とさらに高望みをしてしまうのだ。しかしその野望はいともあっさり、自身の希望の種であったTomに打ち砕かれてしまう。TomはDaisyと離婚する気なんて元からなかったし、そもそもMyrtleを自分の妻になんてする気などなかったのだ。しかしMyrtleは諦めず、Daisyと張り合おうとする。

Some time toward midnight Tom Buchanan and Mrs Wilson stood face to face discussing, in impassioned voices, whether Mrs Wilson had any right to mention Daisy's name.
'Daisy! Daisy! Daisy!'
shouted Mrs Wilson.
'I'll say it whenever I want to! Daisy! Dai−'
Making a short deft movement, Tom Buchanan broke her nose with his open hand. (p. 43)
このように、あまりにでしゃばりすぎてしまったMyrtleは、Daisyとは離婚して自分と再婚する気がないTomに殴られてしまう。女を殴るなんて、「お金」はあるけれどgentlemanとは言い難いTomであったが、それでもその後、MyrtleはTomと別れようとはしない。そこから、「gentlemanとの裕福な生活」は諦められても、「お金のある生活」は諦められない、結局Myrtleが求めていたのは、「お金」そのものだったことがうかがえる。

    MyrtleはGatsbyと同じように、上流階級への強い憧れを抱いていて、上流階級のTomと不倫をすることによって、あたかも自分も上流階級の一員であるかのように振舞う。

'I like your dress,'
remarked Mrs McKee,
'I think it's adorable.'
Mrs Wilson rejected the compliment by raising her eyebrow in disdain.
'It's just a crazy old thing,'
she said.
'I just slip it on sometimes when I don't care what I look like.' (p. 37)
しかし、いくらMyrtleがお高く上流階級ぶってみたとしても、やはり貧乏くささが抜けていない。結局はMyrtleがいかにがんばって上流階級ぶってみても、それが逆に自身の教養のなさを露呈するだけであり、そこが教養のあるGatsbyとは決定的に違うところなのである。

    その教養のなさ、知恵のなさが最終的にMyrtleを悲劇へと導いてしまう。自身の不倫に感づいた夫Georgeに部屋に閉じ込められてしまったMyrtleは、自身の知恵のなさ故に、いくつかの大きな誤解をしてしまったのだ。まずは、Tomの妻Daisyを、Jordanのことだと思ってしまったこと。次に、GatsbyとDaisyが乗っている車には、Tomが乗っていると思ってしまったこと。そして最後は、Tomは自分を夫Georgeから助けてくれると思ってしまったこと。これらの誤解が偶然にも重なりあい、Myrtleは自身の人生に強制的に幕を下ろされてしまうのだ。

    以上のことから、Myrtleの価値観は「「お金」のある生活」であることが分かる。

    3人の価値観を見てきたが、3人に共通して言えることは、みな自身の価値観に「お金」が深く結び付いていて、「お金」がそれぞれの価値観を支配している、ということである。そして皮肉なことにも、それぞれの「お金」という価値観から、この物語は最終的に悲劇へと向かっていってしまうのである。


Back to: Seminar Paper Home