Seminar Paper 2009
Yui Ogasawara
First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010
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The Great Gatsby の女性たち
未熟さゆえの悲劇
The Great Gatsby は、1920年代のアメリカ社会に生きた人々の成功と失敗、また主人公Gatsbyの失われた青春の夢を追った、当時の社会が色濃く反映されている小説である。この小説の中にはさまざまな女性が登場するが、それはお金持ちのお嬢さんであったり、1920年代当時、最先端をゆく女性ゴルファーであったり、友人とホテルに住んでいる女性であったりと、一見とても華やかでお金持ちで自立したセレブ女性といった感じだが、私はこれらの女性たちに当時の社会を反映している特徴があると感じた。そこで私は、The Great Gatsby の女性たちは、新時代に馴染めない未熟な女性だと仮説づける。第1次世界大戦が終わり、平和な時代がおとずれた1920年代。アメリカでは黄金の20年代と言われ、女性が遂に長い間求めて戦ってきた政治的平等を勝ち取った年でもある。 それまでは、女性は経歴を積むか、夫と家庭を持つかのどちらかを選ばざるをえず、本質的に両方を追求することはできないと考えられていた。この考え方が20年代に変化し始め、より多くの女性がその経歴で成功するだけでなく、家庭も持ちたいと望み始めた。そのような新しい時代において、これまでの男性優位な時代を打ち壊し、女性としての自立をし始めたのが、The Great Gatsby に出てくる女性たちである。彼女たちは、さまざまな特徴を持ち女性らしさを発揮しているが、最後には自立しきれない、男性優位から切り離れられない未熟さを表す。この仮説を基に彼女たちを分析していく。 まずは、Daisyについて分析していく。Daisyは裕福な家の娘で、夫のTomと娘と暮らしている。そんな仕事ではなく家庭を持ったDaisyは、とても女性らしく男を虜にして、手の上で転がすような雰囲気を持っている。 Her face was sad and lovely with bright things in it, bright eyes and a bright passionate mouth, but there was an excitement in her voice that men who had cared for her found difficult to forget: a singing compulsion, a whispered ‘Listen,’ a promise that she had done gay, exciting things just a while since and that there were gay, exciting things hovering in the next hour. (pp. 15-16)上記のように、Daisyは男を弄ぶような態度を取り、男慣れをしている女性として表現されている。このことから、Daisyは今の裕福な生活に満足し、心に余裕を持っていることがうかがえる。しかし、そんな心に余裕を持ったDaisyが動揺する場面が2カ所ある。一つ目は、Tomが女性らしき人と電話をしているときのことだ。 ‘I love to see you at my table, Nick. You remind me of a--of a rose, an absolute rose. Doesn’t he?'Daisy は急に、Nickのことをバラのようだと誇張表現し始める。これは、Tomに女がいるという事実を知っていながら、そんなこと気にしていないという態度を取りきれずに動揺が見えてしまっている部分である。1920年代、女性の地位の確立が認められ始めたばかりという時代だけに、Daisyも女性として地位を確立しきれず、どこかTomの後ろを歩いているという事実が読みとれる。また、The Great Gatsbyのクライマックスでも、その仮説を裏付ける出来事が起こる。それは、DaisyがTomの愛人であるMyrtleを引いてしまったあとから最終章までのDaisyの行動である。 Daisy and Tom were sitting opposite each other at the kitchen table, with a plate of cold fried chicken between them, and two bottles of ale. He was talking intently across the table at her, and in his earnestness his hand had fallen upon and covered her own. Once in a while she looked up at him and nodded in agreement. (p. 152)Daisyは、家に帰ったあと自分の部屋に引きこもるとGatsbyと約束したにもかかわらず、実際は夫であるTomとキッチンで話し合いをしている。上記のようにTomに説得させられ、それに従うと言った雰囲気が読みとれ、さらにこれ以後、Daisyは登場せずに小説の最後の部分でTomだけが登場する。このことから、やはりDaisyは、お金持ちのTomと結婚し、子どもがいて、自由にわがままな生活を送っているが、その生活を支えているのは実際Tomであり、Tomがいないとなにも出来ない、未熟な女性なのである。 次にBakerについてみていく。Bakerは、女性ゴルファーとして登場する。当時女性ゴルファーといえば時代の最先端を行く職であり、Daisyとは反対に、家庭でなく経歴をもった女性である。 I looked at Miss Baker, wondering what it was she ‘got done.’ I enjoyed looking at her. She was a slender, small--breasted girl, with an erect carriage, which she accentuated by throwing her body backward at the shoulders like a young cadet. Her grey sun-strained eyed looked back at me with polite reciprocal curiosity out of a wan, charming, discontented face. It occurred to me now that I had seen her, or a picture of her, somewhere before. (p. 17)上記のように、外見も女性らしいというよりはスポーツマンタイプの体格をしており、男性を惹き付けるDaisyと比べると、男性を惹き付けるようなオーラはあまり持っていない。家庭より経歴を重視する様子が’I’m absolutely in training.’ (p. 17)というセリフにも表れている。1920年代の新時代、より多くの女性がその経歴で成功するだけでなく、家庭も持ちたいと望み始めた年。経歴を積み重ねるBakerは新しい動きを見せ始める。それが、Nickとの恋である。The Great Gatsby は、Gatsbyの青春の夢を追うストーリーであり、それを見届けたのがNickであった。そして、そのNickの隣には気付くとBakerがいるようになる。最初にNickとBakerが二人きりで会ったのは、Gatsbyのパーティーであった。その際は、Nickから話し掛けている。 She held my impersonally, as a promise that she’d take care of me in a minute,and gave ear to two girls in twin yellow dresses, who stopped at the foot of the steps. (p. 48)Bakerは、パーティーに慣れていないNickをエスコートしている。この時点から、恋する女性という雰囲気こそ出していないが、お互い惹かれ合っているのではないかと想像する。Bakerは、経歴重視の生活を送ってきたため、終始女性としての可愛らしさを出さず、どこか強がっている、恋愛に慣れていない女性という印象を受ける。しかし、一度だけ女性らしい態度を取った場面があった。それは、ストーリー後半、事故が起きたあとにGatsbyの家にNickとBakerが寄ったときのことである。 I was feeling a little sick and I wanted to be alone. But Jordan lingered for a moment more. I’d be damned if I’d go in; I’d had enough of all of them for one day, and suddenly that included Jordan too. She must have seen something of this in my expression, for she turned abruptly away and ran up the porch steps into the house. (p. 149)Bakerは、Nickに中に入ろうと誘うが断られてしまう。そして、Nickの態度から邪魔者扱いされたというような感情を抱き、怒ったようにというよりは拗ねたように家の中に入ってしまうのだ。このことから、BakerがNickに恋心を抱いている様子がうかがえた。しかし、経歴と家庭を両方つかもうとしたBakerだが、それは失敗に終わる。すべての事件が終わったあと、BakerはNickに電話をし、’I want to see you’(p. 161)と言うが、Nickのほうは口では’I want to see you, too.’と言っているがDaisyを始めとする上流階級者に嫌気がさしており、Bakerもその中に入っていた。Bakerは、結局男であるNickの感情によって振られてしまうのである。そこに、1920年代の完璧な女性として確立出来なかった未熟なBakerの姿があった。 最後に見ていくのがTomの愛人であった、Myrtleである。Myrtleは、家では夫であるGeorgeよりも上の立場に立つ女性である。Georgeとの家庭に満足しておらず、本気でTomがDaisyと別れることを望んでいる。裕福でないために裕福さを味わえるTomとの愛人関係を楽しんでおり、Tomといるときはセレブを装い、Tomが借りているアパートの中もこだわりの家具で溢れている。しかし愛人であったTomは、実際、Daisyと別れる気は一切持っていなかった。それが、次の場面に表れている。 Some time toward midnight Tom Buchanan and Mrs. Wilson stood face to face discussing, in impassioned voices, whether Mrs. Wilson had any right to mention Daisy’s name. Making a short deft movement, Tom Buchanan broke her nose with his open hand. (p. 43)Daisyの名前を連呼したMyrtleを、Tomは殴ったのである。この行動から、TomはDaisy とMyrtleを同等に扱う気がないことが分かる。そんなMyrtleは、夫であるGeorgeに監 禁され、愛人であるTomに助けを求め、Tomの妻であるDaisyが運転する車により事故 に遭ってしまう。複雑な関係が絡み合い、男が原因で人生の幕を閉じることになったのだ。 男に翻弄され、命を落としてしまったMyrtleもまた、女性として意志が未熟であった。 Daisy、Baker、Myrtleといった3人の女性を見てきたが、彼女たちの共通点は、強がっ た態度を取るが、結局は男性の言いなりになり、男性を頼りにしてしまうところである。 彼女たちの強さは、弱さ、未熟さゆえのものだったのである。家庭を捨てることに怯える Daisy、家庭を手に入れられなかったBaker、上級な暮らしを望むばかり自ら命を落とし たMyrtle、彼女たちは「1920年のアメリカ」という女性が物言える時代になったばか りの女性たちの象徴であり、時代という運命が、彼女たちの未熟さを翻弄したのである。 作者のFitzgeraldは実際、Zeldaという美人女性と出会い結婚する。そして、階級や時代 に揉まれた人生を送っていた。そのことから、もしかしたら、彼女たちのような女性は、 実際に1920年代を生きた作者Fitzgeraldを取り巻いていた女性が反映されたもので あり、それがFitzgeraldの女性観としてThe Great Gatsbyに表されたのかもしれない。 また、The Great Gatsby でキーワードとなる階級や恋愛は、作者自身が実体験、あるい は実際に目で見た事実なのかもしれない。1920年代のアメリカを表す言葉、「狂騒の20年代」は、まさにThe Great Gatsby の世界に反映されていると私は思う。 |
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