Seminar Paper 2009
Shimizu Kayoko
First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010
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The Great Gatsby とMoney
Moneyに執着する者たち
The Great Gatsbyは、主人公であるGatsbyが貧しさの中から身を起こし巨万の富を築くが、理想を追い求めやがて命を落とすという夢の実現と崩壊を描いた小説である。 この作品の最後でNickはこう語っている。 “I see now that this has been a story of the West, after all--Tom and Gatsby, Daisy and Jordan and I were all Westerners, and perhaps we possessed some deficiency in common which made us subtly unadaptable to Eastern life.”(p. 183) そこで、「西部出身の登場人物たちは理想を追い求めるが、その理想を崩壊に導く原因はMoneyにある」という仮説を立て、この作品の象徴であるMoneyと登場人物たちとの関連性を論じる。 ここで、東部と西部の価値観の違いについて考察すると、東部の人間は生まれながらにしてMoneyを手に入れるが、西部の人間は実力で手に入れるのである。西部出身の登場人物たちは、Moneyに対する強い執着心を露わにしているが、それはどこか東部の生活に馴染めずに空回りしているように見受けられる。 Tomは大学時代最も有名なフットボール選手として全米に名を轟かせていた。裕福な家庭に生まれ育った彼は、東部に移り住んでからも金遣いの荒い派手な生活を送っていた。そんなTomが空回りしていることを象徴する場面がある。“‘You make me feel uncivilized, Daisy,’”(p. 19)というNickの発言に対し、Tomは“‘Civilization’s going to pieces,’”(p. 19)と思いもよらぬことを語り出す。Tomは自分に教養があることをひけらかしたかったのだろうが、逆に教養がないことが明らかになってしまった。Moneyと財力という権力を手に入れたTomは、一見東部の人間に近い存在であるように思えるが、やはり東部の人間にはなりきれていないようだ。 Gatsbyの理想はDaisyの愛を得ることである。当初は目的に過ぎなかった富は、やがてDaisyを手に入れるための手段 になっていく。貧しい農家に生まれた彼は富への強い憧れを抱き、実力で巨万の富を築く。Gatsbyの父であるHenry C. Gatzは、息子を“‘He had a big future before him, you know. He was only a young man, but he had a lot of brain power here.’”(p. 175)“‘If he’d of lived, he’d of been a great man. A man like James J. Hill. He’d of helped build up the country.’”(p.175)と高く評価している。その努力の証拠となるのが“SCHEDULE”(p. 180)と“GENERAL RESOLVES”(p. 180)である。日々の努力と決意は、Gatsbyが西部気質であることを証明するものである。 では、TomとGatsbyが愛するDaisyとはどのような女性だったのであろうか。この作品でDaisyは富の象徴として描かれている。彼女は良家の娘であり、常にお金に不自由しない生活を送ってきた。彼女はTomと結婚したもののGatsbyを忘れることはできなかったであろう。Tomとの結婚を選んだということは、つまりMoneyのある道を選んだということである。GatsbyにとってDaisyは富の象徴として映っているに違いない。それは以下の場面から読み取ることができる。 'She's got an indiscreet voice,' I remarked. 'It's full of --' I hesitated.富の象徴として描かれているDaisyは、“Why they came East I don’t know. They had spent a year in France for no particular reason, and then drifted here and there unrestfully wherever people played polo and were rich together. This was a permanent move, said Daisy over the telephone, ”(p. 12)とあるように、富裕階級が集まっているところならどこへでも移り住んでいることから、東部の生活への強い憧れを抱いていることが窺える。 では、理想を追い求め破滅するというGatsbyと同じ道を辿ったMyrtleはどうだろうか。彼女の理想は、貧乏な生活を脱して富裕階級の生活を送ることである。そのために、彼女はMoneyを得たTomと一緒になることを強く望んでいる。“Upstairs, in the solemn echoing drive she let four taxicabs drive away before she selected a new one, lavender-coloured with grey upholstery,”(p. 33)“‘I want to get one of these dogs,’she said earnestly. ‘I want to get one for the apartment. They’re nice to have--a dog.’”(p. 33)タクシーを選んだり、アパートメントで犬が飼いたい、というのはTomのMoneyを自由に使いたいというMoneyに対する執着心である。 Myrtleが自宅に多くの人々を招待するのは、ホームパーティーが習慣になっている富裕階級の生活を味わいたいという気持ちからである。彼女のアパートメントは、“a small living-room, a small dining-room, a small bedroom, and a bath. The living-room was crowded to the doors with a set of tapestried furniture entirely too large for it,”(p. 35)と描かれている。小さい部屋に大きすぎる家具は、Myrtleが富裕階級の生活に憧れを抱いているものの無理が生じていることを象徴している。 Nickはこれまで紹介してきた登場人物の中でもとりわけ西部気質を持ち合わせているといえるだろう。それはTomの家で開かれた食事の場面から読み取ることができる。 They were here, and they accepted Tom and me, making only a polite pleasant effort to entertain or to be entertained. They knew that presently dinner would be over and a little later the evening too would be over and casually put away. It was sharply different from the West, where an evening was hurried from phase to phase towards its close, in a continually disappointed anticipation or else in sheer nervous dread of the moment itself. (p. 19)Nickは宴席という視点から東部と西部の違いをこう表現し、東部の生活に馴染めずにいることを告白している。 NickにとってGatsbyは初め完璧な人物であったが、Gatsbyと接触するうちに親近感が生まれていった。Gatsbyが亡くなった後の東部をNickはこう表現している。“After Gatsby’s death the East was haunted for me like that, distorted beyond my eye’s power of correction.”(p. 183)Nickは葬儀に参列してくれるようGatsbyの友人に連絡を取るが、葬儀当日に現れたのはGatsbyの父とある夜Gatsbyの家で出会った男だった。葬儀の場面は東部の人間に対するNickの怒りが込められている。 ‘I couldn’t get to the house,’ he remarked.東部の人間は招待されてもいないパーティーに出向いてはホストであるGatsbyに挨拶もせず、彼の不確かな噂で盛り上がっている。葬儀に参列した唯一の人間であるこの男の発言は、東部を非難するものであるが妥当であろう。 “‘The poor son-of-a-bitch,’”(p. 182)をGatsbyとそこまで親しい関係ではないこの男に言わせることによって、作者は東部に対する皮肉をより一層書き立てているのではないだろうか。 また、作中に“The valley of ashes(灰の谷)”(p. 29)という表現が出てくることから、Nickにとって東部はそのように薄気味の悪い場所として捉えられている。この“The valley of ashes”(p. 29)はThe wastelandの物質万能主義によって荒廃した社会を象徴している。 “One of my vivid memories is of coming back West from prep school and later from college at Christmas time.”(p. 182)とあるが、Nickにとって一番印象に残っているのが西部に向かって帰郷する時の思い出であるのはなぜだろうか。彼は東部に憧れて西部からやって来たのだから、Gatsbyの家で過ごしたパーティーの思い出であるとか、Myrtleのひき逃げ事件、あるいはGatsbyの死が鮮明に脳裏に残っているのが普通ではないかと思う。 Nickは東部社会に完全に同化しなかった。Moneyを中心に繰り広げられる人間模様に違和感を感じ、次第に東部の生活に嫌気が差していった。10月後半、再びTomに出会った時、真実を知らずにGatsbyを悪党にするTomをNickは許すことができなかった。Tomに真相を打ち明けたかった。しかし、Nickが思いとどまったのは、Daisyへの愛を貫き通したGatsby を思ってのことである。このように、Nickは情や愛といったものを大切にする人物なので東部の人間模様に馴染めないのは当然のことである。 Nickは東部での生活を“I see now that this has been a story of the West, after all ? Tom and Gatsby, Daisy and Jordan and I were all Westerners, and perhaps we possessed some deficiency in common which made us subtly unadaptable to Eastern life.”(p. 183)と振り返っている。文中の“deficiency(欠陥)”(p. 183)は、悪い意味では使われていないように思う。西部の人間が“deficiency(欠陥)”(p. 183)を持っているのではなく、Moneyが絡んだ東部における人間関係の弱い結びつきこそが“deficiency(欠陥)”(p. 183)であろう。 Nickは西部で生まれ育った人間だから、西部に向かって走る列車の中で次第に安心感に包まれ、自身が再びすっかり故郷の空気に溶け込んでしまう感覚になったのだろう。 西部出身の登場人物たちは、東部の生活やMoneyに強い憧れを抱いていたが、その理想が実現されることはなかった。登場人物たちとMoneyとの関連性をもう一度振り返ってみる。Moneyを手に入れたがどこかしら東部の人間になりきれていないTom、同様にMoneyを手に入れたが本当の目的であるDaisyを手にすることなく破滅したGatsby、富裕階級の生活に強い憧れを抱いていたDaisy、Moneyに対する強い執着心を持ち命を落としたMyrtle、東部の人間模様に馴染めずに西部に戻ったNick。 以上のことから、私が立てた仮説が妥当であり、西部出身の登場人物たちの理想を崩壊に導いた原因はMoneyにあるということが証明できるのである。この小説は夢の実現と崩壊、Daisyに対するGatsbyの叶わぬ思いという二つのテーマを描いた作品である。作者が登場人物たちを通して私たちに訴えたかったのは、前者のMoneyに執着する者たちへの警告、また物質社会への批判であろう。 |
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