Seminar Paper 2009

Yukari Takeuchi

First Created on January 29, 2010
Last revised on January 29, 2010

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The Great Gatsby とTime
〜 Gatsbyと時間の戦い〜

この小説では様々な箇所で、時間を表すことばが散りばめられている。また、現実には過去を取り戻すことなどできないが、Gatsbyは過去を巻き戻せると信じ、時間の流れと葛藤しているところがいくつかの箇所から読み取れる。つまり、Gatsbyは時間に戦いを挑んでいるのだ。そんなGatsbyやまた語り手であるNick、そしてDaisyは時間をどのように捉えているのか、そして時間を表すことばが小説の中でどのような役割を果たしているのか、を様々な場面から論じていこうと思う。
“The lawn started at the beach and ran toward the front door for a quarter of a mile, jumping over sun-dials and brick walks and burning gardens--finally.”(p. 12) この場面は、Nickが大学時代の友人であるTomの家を訪れたところである。ここでは、”sun-dials” という時間を表すことばが使われている。ここであえて時間を表すことばを使っていることから、作者の意図が感じられる。これからGatsbyの時間との戦い、つまりDaisyとの過去を取り戻すための戦いの始まりを作者が暗示するためにこのことばを使ったのではないか、と考える。
“Once I wrote down on the empty spaces of a time-table the names of those who came to Gatsby’s house that summer.”(p. 67) ここでは、”timetable”という時間を表すことばが使われている。なぜわざわざNickは時刻表の余白に、Gatsbyの屋敷を訪れた人々の名前を書いたのだろうか。普通の紙ではだめだったのだろうか。この箇所からも、作者の「Gatsbyは時間に戦いを挑んでいる」というイメージを読者に植え付けるという意図が隠れているのではないかと考える。Gatsbyがパーティーを開いていたのも、5年間にもわたるDaisyへの夢を叶えるための策略であり、パーティーを開催しているときも常に時間、つまり過去と戦っていた。そして、GatsbyはDaisyがいつかパーティに来てくれること、もし来てくれなくてもパーティーがきっかけでDaisyとの再会する機会を作ることを、常に願っていたのだろう。 そして後にGatsbyの願いは叶い、Nickの家でDaisyと会う機会を得ることになるのだが、次の箇所からも時間を表すことばがGatsbyの気持ちを象徴していると読み取ることができる。
“Luckily the clock took this moment to tilt dangerously at the pressure of his head, whereupon he turned and caught it with trembling fingers, and set it back in place.” (p. 93) ここでは、Gatsbyが時計が落ちそうになるのを防いでいるのだが、これは久しぶりにDaisyに再会することができたGatsbyが時間を巻き戻そうとしている気持ちを示唆しているのではないか、と私は考える。また、ここで出てくる古びた時計は、GatsbyとDaisyは5年ぶりに再会したわけだが、2人が5年前の心境を再び思い出し過去の懐かしさに浸っていることを示唆する役割をしているのではないだろうか、と考える。
次の箇所からは、過去を取り戻せると自信を持つGatsbyの心境が読み取ることができる。 “Daisy’s face was smeard with tears, and when I came in she jumped up and began wiping at it with her handkerchief before a mirror. But there was a change in Gatsby that was simply confounding.” (p. 96)  Nickが席を立つ前までGatsbyはとても緊張した面持ちだったのにも関わらず、ここではGatsbyの目を見張るばかりの変化が見られる。また、Daisyには涙のあとが残っていた。なぜDaisyは涙を流したのか。それは、Daisyは5年間必死にGatsbyのことを想っている気持ちを必死に抑えてきたけれど、その想いが涙としてあふれたからではないだろうか。やはり、DaisyはTomと結婚をしていながらもGatsbyと同様、5年間Gatsbyのことを忘れられずにいたのだろう。また、Daisyとのやりとりや、彼女の涙を見たことがGatsbyの「時計を巻き戻せる!」という自信につながったのではないだろうか。 しかし次の箇所では、Gatsbyは時間の流れを痛感せざるを得ず、自信を失いかけたことが表れている。 ‘She didn’t like it,’ he said immediately.’ ‘Of course she did.’ ‘She didn’t like it,’ he insisted. ‘She didn’t have good time.’ (p. 116) Gatsbyは自分のパーティーをDaisyは絶対に楽しんでくれる、そしてDaisyと1つになるチャンスのパーティーだと思っていたに違いない。しかし実際にはそんなにうまくはいかず、Daisyとの心の距離を感じることとなってしまった。Gatsbyは過去のDaisyに執着し、また5年間会わずにいたDaisyを美化してしまっていたがゆえ、自分の思い通りにいかなかったDaisyを素直に受け止められずに時間の流れと葛藤している。
‘Can’t repeat the past?’ he cried incredulously. ‘Why of course you can!’ (p. 117) この箇所は、私がこの小説で最も印象に残っている場面である。過去を再現できないわけがない、とここまで強く言えるGatsbyに衝撃を受けたからだ。しかし、先ほどのシーンでGatsbyが絶望しているところから、過去を再現したい!と強く望んでいるGatsby本人こそがそれをできないことを痛感しているのではなかろうか。だから、 “You can’t repeat the past”(p. 117)と言ったNickに対して過去を再現して見せる、と自分に言い聞かせるようにそんなにも強い口調で言ってしまったのではないか、と考える。
“I gathered that he wanted to recover something, some idea of himself perhaps, that had gone into loving Daisy.”(p. 117) ここでは、時間の流れを強く痛感しながらも過去をなんとか取り戻したいと強く願うGatsbyの意思が書かれている。Gatsbyは5年間ずっとDaisyを目標にしてきた。良家で育ったDaisyと恋に落ちることで、Gatsbyの人生はこの5年間で大きな変化を遂げていた。必ずうまくいく!と信じここまでやってきたGatsby。しかし、パーティーで少し自信をなくしかけてしまった。しかし、昔のDaisyとの時間を思い出すことで自信を取り戻そうとしているGatsbyの決意にも似た想いがこの箇所からは読み取れるように感じた。
‘Your wife doesn’t love you,’ said Gatsby. She’s never loved you. She loves me.’(p. 137)この箇所からは、過去に執着するGatsbyがDaisyの気持ちは昔と変わっていないことを信じたい、という気持ちが読み取れる。Daisyが愛しているのは、今も昔も変わらずGatsbyであり、GatsbyもDaisyのことを愛しているということだ。過去を再現するためには、Daisyをも過去に戻さなければならなかったのだ。そのためには、やはりTomの存在を消して1からスタートする必要がGatsbyにはあった。しかし、やはり現実には、時間は流れるものであり、Daisyの気持ちも時間と共に変わるものである。
‘I never loved him,’ she said, with perceptible reluctance.’(p. 138) このセリフは、DaisyがためらいながらもTomに言ったセリフだ。このセリフからは、やはり時間の流れを感じることができるし、Daisyの気持ちは今も昔の変わらずにはいなかったということが読み取れる。つまり、DaisyはTomのことを愛したこともあったに違いないし、完全にTomの存在を消すことは不可能だったのだ。
‘Oh, you want too much!’ she cried to Gatsby. ‘ I love you now-isn’t that enough? I can’t help what’s past.’ She began to sob helplessly. ‘ I did love him once- but I love you too.’ (p. 139) ここからは、あまりにも多くを求めすぎるGatsbyの考えに疲れてしまっているDaisyの気持ちが読み取れる。しかしDaisyは、過去にあったことは変えられないと言っているが今はGatsbyのことを愛している、と言っている。ここでもし私はTomのことを愛していてTomとの生活を捨てるつもりはない、とDaisyが言っていればGatsbyはきちんと現在の事実を受け入れられたのではないか、そして死を招くような事件につながらなかったのではないか、と考える。しかしGatsbyのことを愛している、ということで再びGatsbyの「過去は取り戻せる!」という強い野望を抱かせるきっかけになったのではないか、と私は考えた。

視点を変えて、Nickの視点から時間の流れを見てみよう。 “No…I just remembered that today’s my birthday.’ I was thirty. Before me stretched the portentous, menacing road of a new decade.” (p. 142) “Thirty--the promise of a new decade of loneliness, a thinning list of single men to know, a thinning brief-case of enthusiasm, thinning hair.”(p. 142) この箇所から、Nickはとても現実的に時間の流れを受け止めているように思える。そして、目の前のこれからの10年間を不穏な道としてとらえている。なんとも悲観的な考え方である。この考え方は、Gatsbyの考え方とは真逆である。Gatsbyは、強い野望に向かってつき進んでいく生き方をしている人物である。その野望はあまりにも、強いものであり最後には悲しい悲劇を招いてしまうことになるが。つまり、Nickは自分とは正反対の考え方を持つGatsbyの強い想いに何か心惹かれるものがあり、NickにとってGatsbyの姿は光り輝いて見えていたに違いない、と考える。
では、次にDaisyは過去に対してどのように考えていたのだろうか。  彼女は結局、自ら自分が車を運転していたと告げなかったし、Tomとの生活を捨てる気はなかった。Gatsbyのことももちろん愛していたし、そのことをお互い再確認したことがGatsbyのDaisyへの野望をさらに大きいものにした。しかし、DaisyはTomとの生活をやはり選んだ。つまり、Gatsbyだけが過去に執着しすぎていて、Daisyは過去をもう捨てて現在の道を進んでいたのである。 “I don’t think she ever loved him.” Gatsby turned around from a window and looked at me challengingly. ‘ You must remember, old sport, she was very excited this afternoon. He told her those things in a way that frightened her--that made it look as if I was some kind of cheap sharper. And the result was she hardly knew what she was saying.”(p. 158) ここでGatsbyは明らかに時間の流れを痛感しながら、それを素直に受け入れられず自分の野望は必ず叶う、と自分に言い聞かせている様子がうかがえる。しかし、次の’In any case,’ he said, ‘it was just personal.’ (p. 138) というセリフからは、私事にすぎないと言っていることからも過去は取り戻すことができなかった、ということに気づき絶望しているGatsbyの心情が表れていると考えることができる。

まとめ
Gatsbyはこのように時間の流れと戦ってきた。しかし、その戦いには敗れてしまった。徐々に過去は取り戻せないということに自分自身で気づきながらも、Daisyとの過去は絶対に取り戻せると言い聞かせることで、過去に執着しすぎる人物だった。 また、Nickは現実的に時間の流れを受け止める人物であった。そしてGatsbyの自分とは真逆な生き方に圧倒され、衝撃を受けた。 Daisyは、一度はGatsbyとの過去に浸ったが、最終的にはGatsbyとの過去は捨てた。Gatsbyの熱望するDaisyとの過去を再現するという願いにはこたえず、Tomを選んだ。つまり、変化を受け止め現実を生きていく人物だった。 また、この小説の中で散りばめられていた時間を表すことばはGatsbyが時間と戦っているイメージを強いものにし、ストーリーをおもしろくする展開する役割を果たしていた。
この物語は、最後には悲劇を招くことになった。なぜDaisyが運転していたことを、GatsbyもNickも言わなかったのか。GatsbyはDaisyのことを想って亡くなったのだが、それは最後までDaisyのことを想って生き抜いたということだからGastbyの本望だったのではないか。ここまでDaisyのことを想い、Gatsbyの緑の灯火を信じ、時間を無駄にせず、精神を高め突っ走っていく生き方は、現実的に考えてしまう私にとってはとても尊敬できる部分である。しかし、やはり過去は取り戻せないものである。過去は過去として受け止める大切さをこの小説を読んで改めて実感した。そして、これから私が生きていく上でGatsbyのように常に精神を常に高めていきながらも、変化を素直に受け止め、変化にうまく対応していこうと感じた。


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