Seminar Paper 2010

Satoshi Fujimori

First Created on January 27, 2011
Last revised on January 28, 2011

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小説Lolita の女性たち
Humbertの女性観

 

   今回私はLolitaという作品を読み、それをもとに論文を製作するにあたって「小説Lolitaの女性たち」というテーマを選択した。Lolitaという作品において数多くの女性が出てきて彼女らがHumbertに多大な影響を与え、彼の生き方、考え方を大きく変えていった。この論文において何人かの登場する女性を取り上げ、Humbertにどういった影響を与え、どんな特徴を持つかを分析し、彼女らの共通点と差異をあげていこうと考えている。私が始めにたてる仮説は「小説Lolitaに登場する女性たちは一見するとHumbertに支配されているようだが、実は逆にHumbertを支配している」というものだ。以下に展開していく本論で登場する女性たちがどういった影響をHumbertに与えたかという事に関して掘り下げて行こうと思う。  

   まず彼は彼の女性観を変えた女性であるAnnabelに出会う。彼が13歳の時Annabelに出会ったようである。また彼の性に対する意識というのはLolitaという物語に非常に大きく関わってくるが、その性の知識をいかにして得たかという記述があるのもこのころである。

“in his delightful debonair manner, my father gave me all the information he thought I needed about sex; this was just before sending me, in the autumn of 1923, ”(p.11)
とあり、Humbertはこのころに性に関する知識を得ていた事がわかる。またこの事から同時にHumbertの父が幼少時代のHumbertに強い影響を与えていた人物なのではないかという事も伺える。作品の中に次のような記述がある。
“I adored and respected him(Humbertの父) and felt glad for him whenever I overheard the servants discuss his various lady-friends, beautiful and kind beings who made much of me and cooed and shed precious tears over my cheerful motherlessness. ”(p.10)
この記述から読み取れる事は、Humbertの父は女性の友達が多くいた-女たらしだった。その様子を見ていたHumbertは、それを良い事であり、誇るべき事だと捉えていた。こういった父親の振舞が後のHumbertの女性観に大きく影響していたよう思う。  

   3章でAnnabelが登場する。彼女はLolitaやCharlotteとは違いイギリス人とオランダ人の血をひいたヨーロッパの女性である。HumbertとAnnabelは恋に落ちた。そしてHumbertはAnnabelとの恋で、後のHumbertの恋愛観に大きく影響を与える出来事に遭遇する。その出来事は以下のような事である。

“One night, she managed to deceive the vicious vigilance of her family. In a nervous and slender-leaved mimosa grove at the back of their villa we found a perch on the ruins of a low stone wall. Through the darkness and the tender trees we could see the arabesques of lighted windows which, touched up by the colored inks of sensitive memory, appear to me now like playing cards-presumably because a bridge game was keeping the enemy busy. She trembled and twitched as I kissed the corner of her parted lips and the hot lobe of her ear. ”(p.14)
と続くように、ある夜の二人の密会の様子が事細かに描かれている。しかしこれは途中で人が来そうになり失敗に終わってしまう。そしてこの出来事がトラウマとなってHumbertを悩ませ続けた。HumertはAnnabelとの出来事を人生の亀裂のスタートと表現している。Annabelは死んでしまってもなおHumbertを支配し続けた女性と言えよう。  

   次に登場する女性はValeriaという女性である。Valeriaと出会う前くらいの時期からHumbertはニンフェットと定義した少女に夢中になっており、ニンフェットを手に入れたいという欲望のあまり、売春などにも手を出していた。そこで彼は

“for my own safety, I decided to marry. It occurred to me that regular hours, home-coked meals, all the conversations of marriage, the prophylactic routine of its bedroom activities and, who knows, the eventual flowering of certain moral values, of certain spiritual substitutes, might help me, if not to purge myself of my degrading and dangerous desires, at least to keep them under pacific control. ”(p.24)
というように、結婚を自分の欲望を抑えるための事程度にしか考えておらず、Humbertの女性を軽視するような女性観が伺える。そしてHumbertは自らをモテていたとしている。“Well did I know, alas, that I could obtain at the snap of my fingers any adult female I chose; ”(p.25)といい女性より自分の方が立場が上であるというような言い草が多々見受けられる。HumbertがValeriaを選んだのも彼女がHumbertの描くニンフェット像に近いからというようなものだった。そして性的な行為に関する描写でも
“a girl’s plain nightshirt that I had managed to filch from the linen closet of an orphanage. I derived some fun from that nuptial night and had the idiot in hysterics by sunrise. ”(p.26)
とあり、Valeriaを愛しているというよりも、ただ単に自らの欲望を満たすための存在としか考えていないよう読み取れる。  

   しかしこのような生活が続いたある日、Valeriaは他に男がいる事をHumbertに告げる。これを聞いたHumbertは怒っているというような描写が多いが、彼は今まで支配してきたと思っていたValeriaに裏切られ明らかな動転が伺える。一見するとValeriaよりHumbertの方が立場が上であるようだが、実際のところValeriaは陰で愛人を作りそれをHumbertに見せつけた。そしてそれに対しHumbertは色々心の中では思っていたが、結局何も出来ず、後に風の噂で二人が不幸になったというのを聞き喜んだ。これをみるとHumbertは非常に惨めであり、彼の方がValeriaに振り回され支配されていたような立場関係だったと言えよう。  

   次に挙げるのが物語で登場する女性で最も重要であるLolitaだ。Humbertは初めてLolitaを見たとき、死んでしまったAnnabelと非常に似ていると強く感じ、幼い頃の失敗なども相まってLolitaにAnnabelの影を重ねた。Humbertは“the vacuum of my soul managed to suck in every detail of her bright beauty, and these I checked against the features of my dead bride. ”(p.39)と、Lolitaの事が好きというよりは、Annabelの幻影しか見ていない。Humbertはもはや女性に自分の達成しえなかった欲望への埋め合わせしか望んでおらず、女性を女性とみていないようにすら感じる。これ以降HumbertはLolitaにどうにかして近付いて自分のものにしようと策略を巡らせる。Lolitaも優しく扱ってくれるHumbertに甘える事もあるがそこにある感情は父親への感情のようなものであると思われる。そこで問題が起こる。教育熱心でHumbertに熱をあげているHaze夫人はHumbertのLolitaに対する態度ややり取りに嫉妬してしまう。嫉妬心からLolitaに厳しく接するのだが、それが原因でLolitaと彼女を優しく扱うHumbertとの仲は深まっていった。そこでLolitaは厳しい母に対して甘える事でHumbertを上手く利用していたように感じた。 Humbertは一見すると様々な策略などを駆使しLolitaを手懐け、自らの欲望を満たそうとしているためLolitaに対し主導権を握っているように思われる。しかし深く読んでみるとLolitaのアメリカ女性らしく自由奔放で、気まぐれな性格に振り回され主導権を握られているHumbertの姿が見てとれる。 そしてHaze夫人の死後アメリカを巡る旅に出る2人だが、そのころからHumbertとLolitaの関係性は更に明確になっていく。Humbertは頼るあてのないLolitaの感情を利用し肉体的な関係をもつようになり、Lolitaを心身共に支配していたようである。しかし実際Lolitaは適当に相手をしておけば何でも言う事を聞くHumbertを都合よく利用しており、結局は逃げ出す計画をこっそり立てており、Humbertのもとから去ってしまう。Humbertは、自分の欲望は満たされていたがいいように振り回され、脱走計画にちっとも気付かず、完全にLolitaに主導権を握られていた。そして脱走後もLolitaの事で頭がいっぱいで、Lolitaに対する感情が彼を犯人探しに駆り立てた。そして犯人を見つけ殺してしまい、結果として牢獄生活を送っているのも全てはLolitaに振り回されたためであると言えよう。  

   ヨーロッパ人であるHumbertは幼少時のAnnabelの件がトラウマになっていたというのもあって、女性を軽視し自らの欲望を満たすためならどんなことでもしてきた。私は仮にAnnabelの件がなくともHumbertの女性観というものはそこまで変わりはしないのではないかと思う。Humbertは女性を一人の女性と思わず自らの利益のみを目的とした女性観を持っていた。結局はその支配していたと思っていた彼女らに翻弄され続けた人生を送った。 Vareliaの件でも、Lolitaの件でもHumbertは彼女らを一人の女性として見ておらず、自らのトラウマを埋めるだけの存在のようにしか捉えていない。私が強く思うのは、そこで過去のトラウマなど関係なく、彼女ら自体を見ていたならばHumbertと彼の周りの女性達の人生は大きく変わっていただろう。


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