Seminar Paper 2010
Mizuki Kurokawa
First Created on January 27, 2011
Last revised on January 27, 2011
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小説Lolita の女性たちについて
ハンバートの人生を翻弄した6人の女性たち
この小説に出てくる6人の女性は、ハンバートの心境や物語に大きな影響を与え、なくてはならない存在だ。この女性たちには共通するところもあれば、全く異なるところも多い。この女性たちがハンバートに与えた影響や物語においてどんな意味や重要性があったかを仮説を立てて論じる。 この小説に出てくるハンバートが好きになる女性たちはみな、ハンバートの初恋の相手であるアナベルに何かしらの共通点があると考えた。ハンバートは幼い頃に情熱的で悲しい恋をして、その恋が終わってしまったときから恋愛に関する成長が止まってしまったように思える。 ”that in a certain magic and fateful way Lolita began with Annabel. I also know that the shock of Annabel’s death consolidated the frustration of that nightmare summer, made of it a permanent obstacle to any further romance throughout the cold years of my youth.”(p. 14) 小説に書かれているように、アナベルの死によって、この恋はハンバートにとって幸せな思い出でもあり、忘れてしまいたい悪夢のような記憶なのだ。ハンバートが女性を好きになるときはいつでも、アナベルと比較して彼女に似ているかを判断基準にしていると思う。幼い頃に経験した恋の記憶があまりにも彼のその後の人生に影響を与えたのだ。一人ひとりの女性についてアナベルやほかの女性との類似点や差異について、そしてその女性のハンバートや小説においての重要性について論じる。 アナベル ハンバートは子供の頃から独占欲が強く、愛する人のすべてを自分のものとしたいという欲求があり、それは生まれた環境や家柄の影響があったのではないかと思う。ハンバートとアナベルはお互いに裕福な家庭で育ち、普通の子供が持つ自由がなかったのではないかと思う。常に誰かに監視される日々の中で、それを嫌がり、何とかしてその監視下から逃れて恋人に会っていたのだ。この監視は恋をする邪魔になっていたのもそうだが、それによって逆に恋が激しさを増したのではないかと思う。もし彼女との恋愛がなかったらハンバートは普通の人間と同じように同世代の女性を愛し、平凡で幸せな人生をすごしていただろう。ハンバートは生まれながらに少女しか愛せない恋愛体質だったのではなく、アナベルというあまりにも刺激的な少女と出会ってしまったために悲しい運命をたどることになったのだ。ハンバートが女性を好きになる判断基準になっていたのはアナベルであり、幼くして亡くなってしまった彼女の影をいつまでも追いかけ続けてしまった。 ロリータ ハンバートがその生涯を通して愛した少女である。ハンバートとロリータの出会いというものは偶然的なもので、ちょっとしたきっかけからロリータの家へハンバートが訪れるものだった。ハンバートはロリータを見た瞬間、その魅力のとりこになってしまった。ロリータをはじめてみたときの姿は、アナベルと過ごした最後の日に見たものと同じで、これはアナベルとの再開だと思ったほどだ。ハンバートが“ニンフェット”と呼んでいるのは、9歳から14歳までの、幼い少女のことだ。“ニンフェット”は、ただ見た目が美しいとかスタイルがいいなどの条件で決まるのではなく、ハンバートにしか分からない複雑な条件によって決められる。中でも特に、成熟していなく、いかにも少女らしい子供っぽい感じややんちゃなところも魅力で、さらには下品な要素も許されてしまうというのは少し驚きである。ロリータはハンバートが考える“ニンフェット”の用件を完璧に満たしている少女といえる。しかし少女を“ニンフェット”と呼べるには、男性との年齢差が30〜40歳は必要であり、少年時代に恋をしたアナベルは彼にとって“ニンフェット”ではない。アナベルもロリータもハンバートの心を翻弄した少女であることは間違いないが、彼にとって“ニンフェット”であるかないか、これが二人の相違点といえる。ハンバートにとってロリータは完璧な“ニンフェット”だった。 モニーク ハンバートは幼い少女への強い欲情と同じくらい、その少女たちに何かしらの危害を与えることを恐れていた。罪悪感や法を破る度胸がなかったからで、少女たちには気づかれないようにハンバートは細心の注意を払っていた。ときどきハンバートは幼い頃に自分を虜にしたニンフェットたちがどうなっているのか気になることがある。そしてかつてニンフェットだった少女が成人してからの様子を偶然にも見かけることになる。それがマドレーヌ寺院の近くで会ったモニークだ。ハンバートにとってかつてはニンフェットだったとしても成人してしまえばその魅力というものはなくなってしまうが、彼女は子供らしい部分をいまだに持っており、魅力的だった。“I let myself go with her more completely than I had with any young lady before, and my last vision that night of long-lashed Monique is touched up with a gaiety that I find seldom associated with any event in my humiliating, sordid, taciturn love life.“ (p. 23) 原文にあるように、ハンバートとモニークは関係を持つが、ハンバートにとって彼女との思い出は楽しいものとして記憶されている。少女しか愛せなくなってしまった彼にとって、ほかの女性との思い出は決して楽しいものだけではなく、むしろ苦しいことのほうが多く、完全にいい思い出として記憶されているのはモニークだけだ。しかし、関係を持った次の日、彼女はなぜか幼さを失い、一瞬にして成熟した女のように感じるようになった。彼女とはとても短い交際であったが、ハンバートが交際した重要な女性の一人だ。 ヴァレリア ハンバートは自分で言っているように文句の付けどころがないほどハンサムな男だった。本気になればすぐにでも成人女性を妻に迎え入れることは簡単だった。結婚をすることに決め、相手として選んだのがヴァレリアだった。ハンバートは結婚相手に癒しや家庭料理を求めていたが、ヴァレリアを選んだ本当の理由は、彼女が幼い少女を演技していたからだ。彼女はすでに20台後半であり、ニンフェットの年とはかけ離れえていたが、生毛が生え、少女らしくはしゃいだり、服装も子供っぽく、ハンバートもかわいいと思ってしまうほどだった。しかし結婚してから初夜を迎えた次の日、ハンバートから見たヴァレリアはまったくの別人のように映ってしまう。ヴァレリアは少女のように若々しくかわいらしく取り繕っていたが、よく見ればそれはただの作り物だということが分かり、生毛と思っていた毛は単なる剃り残しだし、ブロンドに染めた巻き毛は根元が黒く、大柄で肥満な女性になってしまっていた。ハンバートのヴァレリアに対する思いはがらりと変わってしまった。ハンバートはモニークのときもそうであったように、一夜を共にすると魅力的に見えていた女性が急に何の魅力も感じられなくなることが多いように思う。2人が夫婦生活を楽しんでいたとは思えないが、4年間は一緒に過ごすことになる。しかしある日ヴァレリアが浮気をしていることを告白した。 “They dazed me, I confess. To beat her up in the street, there and them, as an honest vulgarian might have done, was not feasible. Years of secret sufferings had taught me superhuman self-control. “(p. 27) ハンバートはその告白を聞いて激怒することになるが、ハンバートは自分の感情を押さえつけることに長けていたので、普通ならそこで怒鳴り散らしてしまうところを抑えることができた。ハンバートがニンフェットを見るときの感情というものはほかの人間には計り知れないものであり、それをいつも必死で誰にも気づかれないように隠してきたから得られたものであろう。しかし激怒したのは、もちろんヴァレリアを愛していたからではなくて、自分勝手の行動に頭がきたからである。2人はすぐに離婚をするが、ハンバートにとってヴァレリアはただの憎しみの対象になってしまった。 シャーロット シャーロットに関しては、ほかの女性と違ってハンバートが好意を持ったことは一度もないが、ロリータを産んだ実の母親として物語には必要不可欠な人物である。ハンバートが彼女に抱いた第一印象は、視線を合わせようともせず、こっけいな話し方をするどこか神経質そうな女性で、見た目は魅力的でないともいえないような顔つきだった。ハンバートはロリータと離れたくないがために、シャーロットと結婚することになるが、この結婚にはまったく愛はなかった。ロリータとの2人きりの時間をいつも邪魔してくるシャーロットは、むしろ邪魔な存在でしかなかったのかもしれない。しかしシャーロットがハンバートのロリータへの思いをつづった日記を見つけて、そのすぐあとに交通事故で死んでしまったのは、彼にとってもショックなことだった。ハンバートとロリータの旅の途中でロリータが友達とテニスをしていて、ハンバートが2人のために飲み物をホテルから持ってきたシーンでは、彼はシャーロットの死に顔を思い出している。“I stooped to set down the glasses on a bench and for some reason, with a kind of icy vividness, saw Charlotte’s face in death, “(p. 163) 小説の後半で、何度もシャーロットの死を思い出しているのは、彼女に対して少しは罪悪感を持っていたからだろう。 リタ ハンバートがリタと出会ったのは、ちょうどロリータが自分の元から突然いなくなってしまい、ハンバートが精神的におかしくなってしまいそうな時に出会った女性である。見た目も魅力的で、3回の離婚を経験していて、7人目の恋人に捨てられたばかりで、ハンバートと同じように普通の恋愛とはかけ離れたことを経験してきた女性である。ハンバートとリタは似たもの同士であり、2人は2年間もの間たくさんのところを旅行して、ハンバートはリタの優しさに救われている部分もたくさんあった。“that she was the most soothing, the most comprehending companion that I ever had, and certainly saved me from the madhouse. “ (p. 259) 最愛のロリータを失ったことで、ロリータへの深い未練と彼女を連れ去った男、クィレルに対する憎しみで精神的に崩壊してしまいそうだったハンバートを、何とか持ちこたえさせてくれらのが、紛れもなくリタであり、彼女がいなかったらハンバーとの人生はさらに崩壊してしまったかもしれない。6人の女性の中で一番ハンバートの助けとなり支えてくれたのがリタであった。彼女はハンバートのクィレルを殺害するという計画を知っても、怖がるもせずあっさりと受け入れてしまった強者である。 このように小説Lolitaでハンバートと関係を持った女性には、共通している部分もあり、まったく違う一面を持つ部分も多い。ハンバートが好意を寄せる女性に共通していることは、やはり少女らしい幼さを持っていることで、ハンバートの少年時代の初恋の相手であるアナベルの影をどこまでも追い続けてしまったからだ。ハンバートはアナベルの一緒にすごした最後の姿を、恋愛の対象として追い求め、のちにハンバートはロリータに出会い、アナベルをも越えてしまうほどその魅力に取り付かれ翻弄されてしまう。ハンバートの人生においてロリータを超えるニンフェットは存在せず、彼の人生を振り回した小悪魔で魅力的な少女であった。 |
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