Seminar Paper 2010
Yoshie Shimada
First Created on January 27, 2011
Last revised on January 31, 2011
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小説Lolita の女性たち
人生の勝ち組ロリータ
“LOLITA”のメインキャラクターであるロリータとその母親のシャーロット。この二人は親子ではあるが作品中、ほとんど”親子愛”の印象を感じなかった。シャーロットはハンバートと出会う前は未亡人だった上、唯一の愛すべき娘だったはずなのに、なぜロリータを罵り、ハンバートとの結婚後は邪魔もののように扱っていたのだろうか。私は、シャーロットが自分の幸せを求めるためにハンバートに恋をし、ロリータに嫉妬心を抱いていたと同時に、自分と類似している何かを持っているからではないかと考えた。類似しているものがあるからこそ、自分の持っていないロリータの魅力により嫉妬心を抱いていたのではないかと考える。また女性としても人間性としても、二人を比較すると新たな生活を獲得したロリータは成功者であり、ロリータに対するハンバートの気持ちを知った直後に死に至ったシャーロットの人生は失敗に終わったと捉えられる。恋愛をするにあたり、何に重きを置くかでどのように幸せを掴めるかは変わるものであると考えた。 第一にロリータの持つ独特な魅力・ハンバートがなぜ彼女に執着していたのか、そしてシャーロットとロリータの違いを考えていきたい。ロリータの容姿を見てみると、ハンバートが the vacuum of my soul managed to suck in every detail of her bright eauty, and these I checked against the features of my dead bride.(pp. 39)と昔の恋の相手、アナベル・リーと重ね合わせるほど絶賛するほど美しいようである。アナベル・リーはハンバートの思春期の中で最も純愛で汚れのない存在である女性であり、第一印象でその再来であると表現されるロリータは正しく彼の理想であると言える。そして、アナベルはハンバートにとって「ニンフェット」ではなかったと彼は言っているが、ロリータはニンフェットとして認めているようだ。自分のニンフェット像にさらに近づけたい、という欲と、近くにいるようで自分の「モノ」になかなかできない現実が、彼の妄想力を掻き立て、ロリータに執着していたのではないかと思う。一方でシャーロットに関してはシャーロットが発見して読み上げたハンバートの日記によると、 ”The Haze woman, the big bitch, the old cat, the obnoxious mamma, the old stupid Haze is no longer your dope.”(pp. 95)と(二人が出会ってしばらく経って性格も周知したうえでの日記かもしれないが、)容姿端麗という印象は受けない。ハンバートは完全に彼女を利用しただけにすぎずに、シャーロットの家に下宿を決意したのもロリータがいたという理由だけであり、結婚したのもシャーロットからラブレターをもらったことをきっかけとしてはいたが、それを利用してロリータのそばにいようとしていたにすぎない。実際、彼女を殺してロリータを自分だけのものにしようと考えが生まれていた。ロリータについてハンバートとシャーロットの二人は、 a sudden smooth nether loveliness, as with one knee up under her tartan skirt she sits tying her shoe. “Dolores Haze, ne montrez pas vos zhambes” (this is her mother who thinks she knows French).(pp. 44)とあるようにハンバートはロリータの身体を魅力的に述べている一方で、シャーロットはだらしがないと注意している。このような描写が物語の中でいくつか登場すると思われるが、このシャーロットのロリータへの言葉は躾の中のひとつ、というよりもロリータの容姿を羨んでの言葉なのではないかと推測する。女性であるからにはずっと美しくいたい、注目を浴びたいという欲を彼女への忠告に表しているのではないかと考えた。結婚後のロリータはハンバートとシャーロット、二人の娘になったが、二人のロリータへの扱いは全く違うものであった。前夫とは結婚後、子供も生まれて幸せに暮らしていたのだろうが、継続することなく夫に先立たれたためにぽっかりと心に穴の空いたような時間を過ごしてきたのではないかと思う。そのためか、ハンバートと結婚してからというもの、シャーロットは未亡人であったが故に抑えていた恋愛感情を表に出すようになったと考えられる。だからこそ新婚であり、恋をしたいシャーロットにとって年頃の娘のロリータは邪魔な存在であった。そのため、ロリータをキャンプに出し、娘を置いてハンバートとイギリスに行く計画を立てた。一方でそのような行動に対してハンバートは、もちろんシャーロットとは異なっていた。キャンプに行っている間もシャーロットには秘密でキャンディーを送り、隙があれば甘やかそうとしている。また、シャーロットがロリータをビアズレ―大学に行かせようとする際も反対していた。イギリス行きの件に関しても拒否していた。このキャンディーと大学、イギリス行きの3つの出来事は一見、ロリータの父親・シャーロットの夫としての威厳を示しているようにも見えるが、全てはロリータに自分を意識してほしい・ロリータを自分の近くにいさせたいという表れであると思われる。これほど、ロリータはハンバートには魅力的で、シャーロットにとっては羨ましい存在なのである。 容姿や年齢は母シャーロットと娘ロリータは似つかないが、ここで二人の共通点を考えてみたいと思う。考えられるものが性格の類似性である。 ”You’re a monster. You’re a detestable, abominable, criminal fraud. If you come near ? I’ll scream out the window. Get back!”(pp. 96)というシャーロットがハンバートの日記を見つけた際のセリフがある一方で、 “You revolting in creature. I was a daisy-fresh girl, and look what you’ve done to me. I ought to call the police and tell them you raped me. Oh, you dirty, dirty old mad.”(pp. 141)とロリータが母親の死を知らされる直前のセリフがある。二人とも、精神的に乱れを感じるときは興奮して発する言葉を選ばない傾向があるように思える。これは人間の本能であるかもしれないが、一度周りが見えなくなるとなかなか落ち着かずに自分を主張し続けるように思われる。 また、ロリータは最終的にハンバートから逃げ出したとはいうものの、当初は好印象を抱いていた。シャーロットはラブレターを送り、結婚した事実もあるように、ハンバートを恋愛対象として見なし、生涯を共に過ごそうとしていた。恋愛が(1)情熱(passion、ある異性に対して抱く強い生理的あるいは性的欲求)、(2)親密さ(intimacy、考え方や行動を誰かとともにしたいという感情)、(3)関与(commitment、楽しくいいときばかりではなく、つらく悪いときも、誰かに深く関わっていたいという感情)という3つの構成要素からなり、それらの組み合わせによって、8つの恋愛のタイプ分けが可能だとしている。(遠藤利彦・久保ゆかり・無藤隆『発達心理学』(岩波書店、1995)pp.145-46)また、ある考え方によれば、恋愛関係は、(1)相手から受ける刺激を重要視する段階、(2)価値観を共有するようになる段階、(3)相互の役割を意識し、それに沿って行動する段階、という3つの段階を経て深化していく。(遠藤利彦・久保ゆかり・無藤隆『発達心理学』(岩波書店、1995)p.157) この恋愛のパターン・3つの段階にロリータもシャーロットも当てはまる部分が少なからずあるのではないだろうか。恋愛パターンにおいてロリータはハンバートに親密さ・関与、シャーロットは全ての要素を求めていたのではないだろうか。恋愛感情はそれまで持っていた両親や親族に対する愛情の移行、または類似と考えると、父親のいないロリータにとってハンバートは真の父親に代わる父親として・あるいは大人の男性として何かしらの興味や恋愛感情を抱いていたのではないだろうか。 “It’s right there,” she said, “I can feel it.” ”Swiss peasant would use the tip of her tongue.” ”Lick it out?” “Yeth. Shly try? “Sure,” she said. Gently I pressed my quivering sting along her rolling salty eyeball. “Goody-goody,” she said nictating. “It’s is gone” “Now the other?” “You dope.”She began, “there is not--” but here she noticed the pucker of my approaching lips. “Okay,” she said co-operatively, and bending toward her warm upturned russet face somber Humbert pressed his mouth to her fluttering eyelid. She laughed, and brushed past me out of the room.(pp. 43-44)このロリータの目にゴミが入り、ハンバートがそのゴミを舌で取ろうとする場面はニンフェットとしての素質がある行動とも考えられるが、ハンバートに好意を抱いていたからこそ、彼の行動を受け入れられたようにも考えられる。全く関係のない男に目のゴミを取るから、と言われてその行為を受け入れるだろうか。ロリータがハンバートのお気に入りであることをロリータ自身も自覚しており、ハンバートをハラハラドキドキさせるのを楽しんでいるように捉えることもできる。また、上記の恋愛の段階にあったように(1)相手から受ける刺激を重要視する段階でもあるように思える。もしくはハンバート自身がこの刺激を重要視する段階であり、それを弄んでいたのではないだろうか。この場面の前後でも二人は親密であり、関与しようしている。最終的にロリータはハンバートに対して嫌悪感を抱き、彼から逃げ出すものの、やはり当初は今までの環境を変えてくれる必要な存在であったのではないかと考える。 シャーロットとロリータは自分の幸せのために積極的に行動していたと考えられる。この点が二人のもっとも類似している点であると考える。ハンバートの恋愛対象がニンフェットであるロリータであったため、結果としてシャーロットは利用されて最後は死に至ってしまったが、彼女は娘よりも自分の幸せを優先させて娘と自分・夫ハンバートを距離的に遠ざけようとしていた。ロリータは母親の死後、ハンバートのニンフェット趣味を周知の上でも彼といた方がより良い生活ができると判断し、彼と共に過ごした。また、いつかの幸せを掴むためにそれを限界に感じると、時間をかけながらも焦らずに計画的にクィルティと逃げ出した。クィルティから追い出されたものの、最終的にディックと結婚した。金銭的にハンバートに援助を要請していることから余裕のある幸せとは言えないが、お互いの気持ちを認識し、誰かを支えていきたいという気持ちが生まれたことがロリータの幸せといえるのかもしれない。シャーロットは未亡人であったが故、それまでの寂しさや虚しさもあり、ハンバートの本質を見抜けずに真の幸せを掴めなかった、言わば人生の負け組である。ロリータは理想のニンフェット像を追い求め執着されていたハンバートから逃れ、彼女自身を求めるディックと結婚できた、人生の勝ち組と言える。恋愛における幸せは自分の寂しさを埋めるためや、目先の自分の欲を満たすためだけでは成立せず、自分と相手がどのようにお互いを理解し、価値観を共有できるかで成立するのであると彼女たちを見て感じた。 |
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