Seminar Paper 2011

Natsuki Saito

First Created on February 3, 2012
Last revised on February 3, 2012

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A New Lifeの女性たち
Levinへの誘惑

    A New Lifeには、主人公Levinが新しい生活を追い求めて葛藤する人生が描かれている。30歳の大学講師であるLevinは、ニューヨークから遠く離れたキャスカディアにやって来た。過去の自分を絶ち切り、新たな自分になろうと努力するが、数々の不運に見舞われたり、自ら困難な道を選択してしまったりして、失敗を繰り返す。そんなLevinを悩ませたものの一つが女性である。何人かの女性が登場し、恋愛が繰り広げられる。この小説で描かれている恋愛は、純愛ドラマや映画によくある綺麗で純粋な恋愛というよりは、“ドロドロとした男女関係”といった感じだ。女性関係が思うようにいかない事は、Levinが人生に生きづらさを感じる大きな要因だろう。また、作者は男性だが、この小説の女性描写の中には、女心がよく表現されていると思う。この論文では、作品に登場する四人の女性を分析し、それを通してLevinや作者の女性観について考察していく。

    愛情に飢えた孤独なLevinは、キャスカディアにやってきて間もなく、酒場のウェイトレスであるLaverneという女性に出会う。LevinはSadekという留学生の男と一緒に飲んでいて、初めLaverneの気を引いたのはSadekであった。“her affection for Sadek visibly bloomed”(p. 76)“He had told her he was Levin but she showed no interest.”(p. 77)とあるように、彼女はLevinに全く気のない様子である。臆病なLevinだが、孤独をうめるため、欲を満たすために、その後 “I like you a lot. It would give me great pleasure to be with you tonight.  You’re very attractive.”(p. 79)とLaverneを口説く。するとLaverneは簡単にLevinを受け入れるのだ。 LaverneとLevinは共に夜を過ごすことになるが、情事の最中にSadekによって二人の服が盗まれてしまう。それでもLaverneは“but let’s finish what we were doing and maybe by then he’ll bring our clothes back.”(p. 82) とLevinを誘う。しかし彼はその誘いを断ってしまった。別れ際、また会えないかと尋ねたLevinに対して彼女は、“No, you bastard, don’t ever let me see you again in your whole goddam life. Don’t think those whiskers on your face hide that you ain’t a man.”(p. 85) と罵り、二人の関係はたった一晩で終わってしまう。 最初はSadekに惹かれていたこと、最後にLevinを傷つける捨て台詞を吐いたことから、彼女はLevinに気が合ったわけではないだろう。ナンパに簡単についていってしまうようなLavernは、その時欲を満たしてくれる相手を求めており、Levinと同様に、彼女も愛情に飢え、孤独を抱えていたのかもしれない。

    その後Levinは同じ大学の教師であるAvisと、Levinの研究室でいい雰囲気になる。そして、Avisの提案で、そのまま研究室で肉体関係を持ちそうになる。しかし、そんな最中にGilleyがLevinの研究室を訪れる。Laverneの時と同様に、またしてもいいところで邪魔がはいるのだ。思うようにいかないLevinの人生は、女性関係によく表れている。 上手くごまかし、Gilleyが研究室を出て行った後、一度出て行ったAvisが研究室に戻ってくる。その際“But then Avis has back, freshly made up, her orange blossom renewed.”(p. 133)とあり、Avisの女心をよく表していると思う。女は、男として意識している人の前では、綺麗でいたいものだ。 そしてAvisは“Shall we―go on?”(p. 133)とLevinを誘う。しかしLevinは彼女の病気を知り、それを気遣って“When we have a better place, when you feel better,”“I don’t want to hurt you.”(p. 134)と誘いを断ってしまうのだ。Levinは彼女を思っての行動だったが、“Avis dressed quickly, grabbed her football blanket and left furiously.”(p. 134) とあるように、彼女を怒らせてしまう。後に彼女は“Mr. Levin―I mean Symour―I shan’t allude this again, but I do want you to know I am most sincerely grateful to you for―for your selfcontrol that time.  It isn’t often a gentleman will assist a lady to preserve her virtue.”(p. 261) と、思いとどまったLevinに感謝することになるのだが、その場で怒ったのは、誘いを断られたことで女として見られていないのではないかと感じ、女としてショックだったのだろう。 AvisだけでなくLaverneの時も思いとどまっているLevinは、割と女性に対して冷静だという印象を受ける。

     その後、Levinは二人の女性と恋愛関係に発展する。その一人が、Nadaleeという大学の生徒である。彼は10歳も年の離れた教え子である彼女に惹かれてしまう。彼は彼女への気持ちを抑えようと試みたが、彼女の方からアピールされる。おしゃれをしてきたり、Levinの肘に胸を押し付けたりと、Nadaleeのアピールは分かりやすくストレートである。そして“”If you had any idea that I am a little-innocent,” she said, watching the ripples in the water, “well, I’m not, if that’s what you’re worried about. I was once engaged to be married.””(p.141) “I am a woman and wish to be treated.”(p.141) とはっきりNadaleeに言われると、Levinはついに彼女の誘惑に負け、教師と生徒にあってはならない関係へと発展してしまうのだ。AvisとLaverneの時には冷静だったLevinだが、やはり恋をしてしまうと冷静さを無くしてしまうのだろう。  LevinはNadaleeに夢中だったが、Nadaleeはそうではなかったと思う。Levinが彼女の成績にCの評価をつけた瞬間、彼女の態度は豹変するのだ。評価を上げてくれというNadaleeに対してLevinは、贔屓して評価をあげるわけにはいかないと断るのだが、最終的にはNadaleeと寝てしまったせいで、評価を変更することとなる。彼女はまだ若いからといって侮れない女である。

    Nadaleeとの関係が終わった後、Levinが愛したのは、Paulineという女性である。彼女は、Levinの上司であるGilleyの妻で、二人の子供を持つ母親でもある。 Levinと出会った初日に、彼女がLevinに過去の話をする場面がある。その際、彼女はGilleyと結婚する前に婚約していた男性がいたことを話す。“This was a boy I was engaged to for six months, before I married Gerald.   He had won a Guddenheim and was off to Europe to study medieval history but I knew he was tired of me and I wouldn’t see him again. I never did.” (p. 16) 聞かれてもいないのに自分の過去の男性について話している。また、彼女はこの時、自宅にいるにも関わらずイヤリングをつけ靴を履きかえている。彼女は最初からLevinに自分を女として意識させようとしていたのだろう。その後も何度か彼女の服装にLevinが魅力を感じる場面が何度かある。彼女は自分をよく理解しており、自分の良さを引き出すのがうまいのだ。この二人の会話の最中、“Studying her, though pretending not to, Levin thought her, despite her longness and lacks, an interesting-looking woman.”(p. 17) とあることから、最初からLevinは彼女の思惑通り、彼女を意識し始めていたのではないだろうか。 また、悲しい過去の話の最中に、Paulineは嘘泣きをする。“She wiped one eye with a slender finger.  He looked secretly but saw no dew.”(p. 16) この時だけでなく、作品中で彼女は度々涙を見せる。「涙は女の武器」と言われるように、彼女は自分の弱さを見せて男性の気を引くのがうまいと思う。このようなPauline の行動は、女性の少しずる賢い、小悪魔的な部分が描写されていると感じる。 Paulineとの恋愛関係が続いた後に、Levinは自分と彼女の生活や将来を考え、彼女への想いを押し殺す。しかし、やっとの思いで彼女を忘れることができた頃に、PaulineはGilleyと離婚する決意をしてLevinのもとにやってくる。彼女はLevinに二人の子供を連れて遠く離れたサンフランシスコへ行くことを提案するが、Levinは不安を感じる。しかし、不安を抱きながらもPaulineの計画通りに事は進んでいくのだ。そして、PaulineとGilleyが、二人の子供をどちらが引き取るかで揉めた際に、PaulineとLevinは下記のような会話をしている。

“Would it be so bad to leave them with him?”
“What would he do with them?   Either he’d have to bring someone in to take care of them or send them to his parents.   I don’t want strangers bringing up my children.”
“Couldn’t he take one and we’d have the other?”
“I couldn’t do that, they both need me.   They’re still babies.”
“Suppose I said I didn’t want them?”
“I don’t think you would.”
Levin asked, “What do you want me to do?”
“Talk to Gerald and persuade him to let us keep them.”
“What makes him think he could take them from you?”
“He said he would tell the court I wasn’t a fit mother.”
“Don’t cry.”
“I wouldn’t if you put your arms around me.”
He did that, thinking he hadn’t planned to see Gilley either. (p. 349)
Paulineはこの場面でも涙を見せている。この後Levinは、彼女に言われた通りGilleyと話し、二人の子供を引き取って彼女とサンフランシスコへ行くことになるのだ。Levinは最終的に、大学の教壇に立つ夢を諦めてまでもPaulineを選んだ。自分を女性らしく、弱く見せるのがうまいPaulineだが、彼女の行動からは、女性の強かさが感じられる。

    四人の女性を通して分析すると、Levinは、愛してはいけない人を愛してしまう傾向にある。困難な恋愛、そして誘惑の上手い女性にはまってしまいがちである。作者は自分の経験をLevinに投影してこの作品を描いていることから、作者も禁断の恋の経験があるのかもしれない。 また、作者であるMalamudは、女性描写が類型的すぎる、本当の女性を描いていないという批判があるが、私はそうは思わない。この作品には、ナンパ、同僚、生徒、人妻とさまざまな女性が登場し、それぞれの恋の展開・終焉もさまざまである。女心、女性の魅力、汚い部分まで、よく描写されていると感じた。 ただ、登場する女性に共通するのが、Levinに見向きもしないわけではない、そして女性からLevinを誘う場面があるという事だ。Levinがはかない片思いをしてまったく相手にされずに終わった、というような恋はない。そういう部分では類型的と言えるかもしれない。作者も結構女性からもてたのではないだろうか。

    普通では考えられないような禁断の恋が展開される小説だが、「普通では考えられない」とは言っても、現実離れしすぎていないところが、この作品のよさだと思う。ありきたりすぎず、ファンタジーでもない恋愛描写は、「なにが起こるか分からない」「理想通りにはならない」という人生を表しているのだろう。


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