Seminar Paper 2011

Shnji Sukemori

First Created on February 3, 2012
Last revised on February 3, 2012

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A New Life の女性たち
愛を渇望する男女

 この物語では主人公Levinの生への意志と彼と女性たちの愛を表しているように思える。Paulineが”I love you, Lev. That’s my name for you. Sy is too much like sigh, Lev is close to love.” (pp. 219-220) とあるように、彼の名前も愛を暗示させるような響きではあるが、純愛を描くならば一人の女性に対する愛を描くであろうに、Levinは複数の女性と関係を持つ。親密度には差があるものの、Paulineと出会ってから最終的に彼女の愛を受け入れることに至るまでにも幾人か女性がいたことは事実だ。私はMalamudが愛を求める青年の姿を複数の女性を交えながら描いたことには何らかの理由があるのでは、また登場する女性たちにそれぞれMalamudの女性観が秘められているのではと考えた。

 Levinは西部を訪れるまでに二度愛を失ったことがある。一度目は母親の死である。Levinの父親はMissouri州のKansas Cityで馬具商を営んでいたが、彼が10歳の頃から酒に溺れていて、我慢ならなくなった母親は子供を連れて実家に住居を移した。しかし、酒乱の上に盗癖もあった父親が牢獄で息絶えたことに母親は発狂し自殺した。子供ながらにLevinの愛への疑問がここで生まれたように思える。二度目は東部にいた頃、Levinは心を打ち込んだ愛人を持ったことはあったが、その女性は彼を捨てて別の男性と消えてしまい、両親の死よりも痛切な苦悩を味合わせた。その後二年間、彼は飲酒に明け暮れ、絶望な自己嫌悪の情を抱きながら、死にたいような気持ちで生きてきた。

 全てを失ったLevinは妙な美意識に捉われながら新しい生活・新しいアイデンティティを求めて自己開拓を感じさせる西部へと渡ってくるが、失い続けていた完全燃焼できるような愛も同時に求めていただろう。自身の孤独から嘆息を漏らす瞬間もあったが、彼の情欲をかきたてた女性には幾人かめぐり合っていたのは事実である。

 シリアから来たSadekに連れられて入った大学近くのレストランのウェイトレスであるLaverneであるが、郊外の農家の納屋の中で愛をささやきながら性交を試みようとしたものの、公道で立ち小便をして警察の厄介になっているSadekをほったらかして先を越してしまおうとするLevinを恨み、脱ぎ捨てた衣服を持ち逃げされてしまうという珍事があったが、納屋の中での会話で、

“Your breasts,” he murmured, “smell like hay.”
“I always wash well,” she said.
“I mean it as a compliment.” (p. 81)
とあるが、牧歌的になっているLevinのセリフをLaverneはそのまま受け止めてしまう。これはキリストが厩で誕生したことを踏まえて神秘性を訴えながらロマンチックに口説いているのだが、現実的なLaverneにはその意図が伝えられず、異性間の価値観の違いを顕わになっている。

 またLevinは女学生に手を出すという禁忌も犯していた。Levinの授業に参加していたNadaleeがその人である。大学に入る以前に婚約や銀行勤めを経験しており、彼女が欠席の際はLevinを授業に集中できなくさせてしまったり、情欲の処理に頭を抱えさせたりと、強烈な魅力の持ち主であることをうかがわせる。その彼女であるが子悪魔的な気質を持っており、その若さから行動はかなりアグレッシブである。彼女にすすめられるままに彼女の叔母が経営するモーテルへ二人は車で訪れ、そこで叔母が留守中に性行為に及んでしまうのであるわけだはあるが、それはLevinへの愛があったからであろうか。後日、彼女が作文の評価に不服を唱える事件が起こるが、彼女は高評価を得たいが為にLevinに言い寄った打算的な性格を持っているようだ。評価の改ざんを拒否したものの、後に性的関係を結んだことを暴露されてしまうことからもその本性が見られる。ここに女性の魔性の魅力とそれに引っかかってしまう男性の弱さが表現されているのではないだろうか。

 英文科の同僚であるAvisもLevinと関係のあった一人ではあるが、私は世間的には彼女が結ばれる相手としては一番問題が無く関係を進めることができたのではと考えてしまう。独身女性講師ということで社内恋愛ではあるものの、Levinと同様に愛を渇望しているのだから条件は良いように思えたが、Levinからすると孤独感と愛への衝動的な欲求から来る行為だったのであろう。そう考えるとAvisはこの物語で最も報われない人物かもしれない。Gilley、Leo DuffyをPaulineに奪われてしまっていることから生まれるPaulineに対する嫉妬も仕方無いように同情してしまうが、Levinへの執拗な忠告にはその内容よりもAvisの曲げられてしまった性格が感じられる。過去に愛した二人の男性に続いてLevinも奪われてしまうのではという恐怖からの言動ではあるが、必死さが空回りしてしまったのであろう。

She hesitated, then quickly said, “Gerald took a photograph of them on beach one day at the coast. They were both naked. I assumed you knew, or I ?I wouldn’t-“
He lived through a nauseating sense of having been here before. (p. 262)
このように、彼女は良心からかLevinに真実を告げて傷つけないようにするためか一瞬躊躇するが、その不安と欲からPaulineとLeo Duffyの二人が裸でいるところの写真をGilleyが持っている事実を伝えてしまう。案の定、Levinは嫌悪感を抱いてしまうわけだが、この事実を伝えたAvisにも少なからずその影響はある。Paulineに対しての嫉妬のような思い入れは強くなるし、その事実を理由にAvisに乗り換えるのも難しい。彼女は自身の心配で墓穴を掘ってしまった。彼女は三十代の独身女性の愛に飢えた悲しみを体現しているのだろう。

 そして、Gilley、Leo Duffy、Levinと落としてきたPaulineである。彼女は背が高く、胸が平らであまり視的な魅力を感じない。Levinは”She was like a lily on a long stalk.” (p. 4)とその容姿を滑稽に表現してもいる。またLevinに会うために子供をほったらかしにしたり、夫への不満を漏らしていたりと、あまり出来る母親というものも感じさせない。しかし、自分の現状に満足しきれず、誰かによって啓発されたいという向上心が魔性の女を作り上げたのであろう。

 彼女がLevinに興味を抱いたのは彼がまだ東部にいた頃、Gilleyの元に送られてきた大量の就職希望者の履歴書に添付されている写真集の中に東部から提出されたユダヤ人的な風貌のLevinの写真を見たときであった。Gilleyは別の人物を雇うつもりでいたのだが、Paulineの説得によりLevinを採用してしまう。Paulineはこの時点でLevinに亡きLeo Duffyの姿を見ていたのかもしれない。同じように東部からやってくる男性に西部の女性は期待していたのだろう。そして、いざ西部へやって来た髭面の男を気に入ってしまうわけである。

 LevinがCascadia大学に赴任して間もなく風邪にかかり、滅入るような孤独感におそわれながら下宿で安静にしていたわけだが、薬や果物を持って見舞いに来たPaulineの瞳に憐れみと同情の色を見てから彼の心は彼女に惹かれていった。関係が急接近した郊外の大学保有森での出来事であるが、

They weren’t looking at each other. When their eyes met, although he obsessively expected a veil, there was none, and Levin beheld an expression of such hungry tenderness he could hardly believe it was addressed to him. Enduring many complicated doubts, he dropped his things in the grass. They moved toward each other, their bodies hitting as they embraced.
“Dear God,” Pauline murmured. Her kiss buckled his knees. He had not expected wanting so much in so much giving.
Levin warned himself, Take off, kid, and in their deep kiss saw himself in flight, bearded bird, dream figure, but couldn’t move. (p. 198)
とあるように、Levinに向けられた愛情に飢えた表情に導かれキスをするのだが、彼は我に返り、鳥になって逃げてしまいたいと述べている。しかし、その飢えた愛に飲み込まれてしまうわけだ。官能的なシーンであるのにもかかわらず、このように滑稽な表現をしていることからも年上の人妻の魔性の力を感じらせる。狙った獲物は逃がさないといった具合だろうか。

 また、PaulineがLevinに惹かれるのには現在の夫であるGilleyとの比較も大いに関係するだろう。幼少の頃から彼女は思慮深い父親から理想主義を吹き込まれて育ってきたので、Gilleyのように自己の現状には満足できず、向上心を持った現実逃避を考えてしまっているのだ。常に心の渇きに促され、ひそかに自己向上や自己改善の必要を感じながら、自分を渇きから解き放ってくれる人を求めて生きている女性なのである。従って、学問研究への情熱を失い、自分自身の信念も持たず、本質的なものを顧みず、平俗な満足を求めて生きているGilleyよりも、東部での悲惨な生活や過去から這い上がり、信念を持って、””I came to believe what I had often wanted to, that life is holy. I then became a man of principle.”” (p. 201) と語るLevinに一層強く惹かれたのであろう。当初は火遊び程度に考えていたLevinではあるが、東部時代の告白と決別が二人の関係を密着させ、密会を重ねるうちに本気になり始めたと考える。ここにLevinの暗い闇を優しく包むようなPaulineの母性を感じる。Levin自身も過去と決別し、新しい生活を求めて西部へ移住してきたので、そのきっかけとなった彼女に好意を持つようになるのも理解できる。”The new life was very new.” (p.204) という記述からもPaulineによって開放された、今までとは明らかに違う新鮮な生活を感じている。つまり、理想主義のPaulineと新しい生活・アイデンティティを求めるLevinはなるべくして交わったと言えるだろう。どこまで計算されていたかは判らないが、Paulineの思惑通りになったことは確かである。

 しかし、LevinとPaulineの情事が学内に広まることで避けられないのはLeo Duffyの件である。彼と同様にPaulineと関係を持つことで二人が咎められることは必至であるはずだ。Leo Duffyと同様に大学を追放されることは容易に想像できる。””The time is out of joint. I’m leaving the joint.”” (p.334) と言葉を残して去っていって者の二の舞にはさせまいと考えたはずである。ということは、Levinと関係を持った時からPaulineには共にCascadia大学を去る覚悟があったのではないかと推測する。彼女の理想主義とLeo Duffyの一件が絡み合うことで、Levinへの感情が生まれたのであろう。Leo Duffyとの関係への不信感と学科長選挙のために彼女を避けるLevinに対して子供を連れてまで会いに来るやつれた姿もそのような心境から生まれる渇いた心を映しているのだろう。

 そのような妻に持ちながら、現状に満足しようとするGilleyは果たして彼女の旦那に適していただろうか。

“Was Duffy a handsome man?”
”In his way. But that was a good trick of yours coming with a beard.”
“Trick?”
“Pauline has always had odd tastes.” (p. 345)
上記のように、彼女は妻としては面倒な女性であるということをGilleyは執拗にLevinに忠告するシーンは印象的であるが、これは一度Duffyに奪われたPaulineの愛を守りたい気持ちの裏返しのようにも感じられる。文学研究には興味を失い、自らの子供を作ることもできない彼には仕事の成功と円満な家庭を築くことが生きがいだったのであろう。しかし、追放されることになったLevinとPauline、二人の子供を乗せた車に向かってシャッターを切り、”Got your picture!” (p.367) と叫び、カメラの後ろから紙片をちぎり取り、それを高々と振りかざしているが、車が通り過ぎて後方で小さくなっていく姿を想像すると、現状に満足したままのGilleyと理想を求め新たな地へ向かうLevin達との比較になるように考えられる。この二人の男性の間でPaulineは前途多難ではあるものの新たな生活を勝ち取ったのである。

 上記の女性たちはみなLevinと男女の関係を持つような設定で話が進んでいる。Levinのロマンチックな言葉に惹かれない田舎娘Laverne。Levinを手玉にしようとした現代娘Nadalee。愛を渇望し必死になる独身女性Avis。理想を追い求めながらも着実に目的を果たす既婚女性Pauline。MalamudはLevinがこの女性四人の中で自分のアイデンティティを模索する設定にしたかったのであろう。しかし、現実の女性はこの髭面の男とそんなに向き合うだろうか。そう考えるとMalamudの女性観はかなり偏ったものにも感じる。たしかに、Levinとの関係が始まらなければ比較にはならないものの少し上手くできすぎているようにも感じてしまう。しかし、それぞれのキャラクターの設定は現状と向き合う女性の「強さ」を感じるものが多いため、現代女性の中には共感する人も多いかもしれない。従って、女性に対する描写は現実味には少し欠けるものの、典型的な像を映し出すことでその根本を捉えているのではないだろうか。


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