Seminar Paper 99
Kiyosumi Danura
First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000
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「Adventures of Huckleberry Finnの女性たち」
ハックのアニマ
ハックルベリイ・フィンを読んで先ず感動したのは、このトゥエインの自然に関する描写であり、それはトゥエインが本当にそのような場所にいて本当にそのような体験をしたのだろう、とこの作品を読んで一番始めに思った。次に、ハックの流れ出てくる嘘について、トムのこの虚言癖と違ったものがあり、それについてこれをゼミ論にしようと思ったくらいである。また、勉強している内にハックとジムの関係も面白いと思った。 ではなぜ女性観を書こうと思ったか。それはトゥエインが恋愛小説作家でないからである。トゥエインがどのような女に惚れたのか、それを調べてみたかったのだ。ハックルベリイ・フィンの中には恋に関する部分はほとんど無い。少年が主人公であるから仕方が無いのだが、それでもこの作品の中にトゥエインは彼の身の回りの女性を描いて現実感あふれる登場人物を描いたはずである。そして少なからずハックとトゥエインはシンクロしていたとおもう。ここで興味を持った点について触れてみたい。ハックに苦手な女性と理想の女性はトゥエインにとっても同じではないかということだ。 まず、ダグラス未亡人 とワトソンさんについて。彼女らはどうにかハックをcivilizeさせようとした。そのことにたいしてハックは徹底的に嫌がっている。 The Widow Douglas, she took me for her son, and allowed she would sivilize me; it was rough living in the house all the time , considering how dismal regular and decent the widow was an all her ways; and so when I couldn't stand it no longer, I lit out.(p.20)とあり、自由な生活に戻りたがっていた。 これにたいしてトゥエインもこのような人物を嫌っていたはずである。 彼の父親が亡くなった次の年の夏、町でははしかが流行し、毎日子供が死んでいった。子どもたちは病気にかからないように家の中に閉じ込められて、一歩も外に出られなかった。トゥエインは、こんな不自由で、きゅうくつで、惨めな生活をしなければならないのであれば生きている価値がないと思って,まさしくトム・ソーヤーやハックルベリ・フィンのように、密かに家を抜け出して、遊び友達を訪ねていく。池上日出夫「アメリカ文学の源流 マーク・トゥエイン」(新日本出版社、1994、p.20)このようにまさにハックのような性格であったのだ。最初に私がこの本を読んだ時に自然の描写が素晴らしい、と書いたがやはり彼はハックを地でいっていたのだ。 ただ、ダグラス未亡人についてはハックは嫌いきれていなかった様子である。彼女はハックにたいしてとても優しかった。盗賊団を作る時、彼は夜中こっそり抜け出して、服を汚して帰ってきて、ワトソンさんにすごく叱られるが、ダグラス未亡人はハックを叱らずに、ただ悲しそうにしていただけであったので、ハックはここで申し訳なく思っている。"but the widow she didn't scold, but only cleaned off the grease and clay and looked so sorry that I thought I would behave a while if I could."(P.23) ハックやトゥエインが嫌っているのは、口ではきれいごとを言って実際には正反対の事をする例えば、Grangerford家、Shepherdson家のような人たちを嫌っていたのではないか。ダグラスはその点、ハックにたいして優しく振る舞っていた。彼女の言葉には欺まんはなかったであろう。彼女が遺言で自分がジムを売ろうとしていた事を恥ずかしく思い、そしてジムを自由にするといっている。これはこの時代の南部の人にとって考えられないのではないのか。その意味でダグラスとハックは意見の一致を見ている。余談ではあるが、トゥエインの知り合いで黒人奴隷解放運動の中心的人物であったフレデリック・ダグラスという人がいる。トゥエインが狙って書いたものかどうかは分からないが。 さて、話は180度変わって、今度はメアリー・ジェーンについて書いてみたい。彼女は王様と公爵がイギリスからきたウィルクスになりすまして、3人の姉妹から金を巻き上げようとする場面で登場する。ハックは彼女にたいして一目ぼれをしている。"she was awful beautiful, … "(P.177) 彼はこの後王様と公爵が芝居をうって自分達がウィルクスであり、メアリー達をだまして、さも悲しそうにして周りの人たちの同情を買っていることにたいしてこう言っている。"I never see anything so disgusting."ハックの態度は今までと違う。今までは見過ごしてきたが、今度ばかりは、という思いがあったのだろう。 事実、 It ain't right nor kind for you to talk so to him, and him a stranger and so far from his people. How would you like to be treated so?…he was here in our house and a stranger, and it wasn't good of you to say it. If you was in his place, it would make you ashamed;…The thing is for you to treat him kind, and not be saying things to make him remember he ain't in his own country and amongst his own folks.(P.188)このような事を言ったメアリーにたいして、ハックはとても感動し、"…This is a girl that I'm letting that old reptle rob her of her money!"(P.188)といっている。さらにジョアンナがハックに謝る時、ハックは彼女に謝らせる為なら、嘘を一千でもつきたいとさえ思っている。そしてハックは彼女たちのためにお金を取り戻す事を決意している。これは私個人的には、ハックがジムを救うと決心した時のものか、それに次ぐものだと思っている。なぜならハックはいままで王様と公爵がどんなにあくどい事をしようとこれを見過ごしてきた。ハックは以前こう言っている。 Well, then, says I, what's the use you learning to do right and ain't no trouble to do wrong, and the wages is just the same? I was stuck. I couldn't answer that. So I reckoned I wouldn't bother no more about it, but after this always do whichever come handiest at the time.(P.113)こう言っていたハックが、たとえ自分が悪者の一味であると知られても、メアリーにそれを知られたとしても、お金を取り戻そうと決心した。そして"…I'll up and tell the truth this time,…"(P.199)と言って、本当の事をはなし、彼のために祈る、といったのハックの感動のしようは、本当に今までに無いものであった。感動したハックはこのようにいっている。 Pray for me! I reckoned if she knowed me she'd take a job that was more nearer her size. But I bet she done it, just the same―she was just that kind…. You may say what you want to, but in my opinion she had more stand in her than any girl I ever see; in my opinion she was just full of sand…. And when it comes to beauty―and goodness too―she lays over them all….(P.202)ともうのろけでしかない。別れ際にも心臓が破裂しそうだとかハックはいっている。 それでは彼女の性格を見てみよう。彼女はいきなりやってきた王様達をいともたやすく信用し、それに王様達から受け取った6000ドルをそっくり返し、困っていたハックを助け、ハックの為に祈ると言っている。これだけ見ればただの優しい女だが、こういう場面もある。 … and then up she jumps, with her face afire like sunset, and says: "The brute! Come―don't waste a minute―not a second―we' have them tarred and feathered, and flung in the river!"これは、上記の彼女の性格からはまったく思い付かないものだ。さらにすごい事に、"…her nostrils spread and her eyes snap when she said it, too."とあり、かなり恐い一面も覗かせている。ハックはもう冷静ではないから彼女は一番良い少女であり、一番勇気のある少女であると言ってはいるが。これはトゥエイン特有の皮肉なのだろうか。どんな人間にも欠点はあるのだという。 しかし、この3姉妹のの中で、なぜハックがメアリーに惚れたかと言うと、やはりそれはメアリーの黒人奴隷にたいする態度ではないか。この3姉妹は自分達の奴隷である黒人達が王様達によって競売にかけられ、売られていく時涙を流して悲しんでいる。だが、下の姉妹は英国に行きたがっていたが、メアリーは離れ離れになった黒人の親子が気がかりで英国にはいけないと言っている。ハックはこのメアリーの態度を見て惚れ込んだのだろう。また、のちにジムを助け出す為には地獄に落ちてもいい、という決断にはこのメアリーとの関わりも無視できない所であろう。 さて、ハックが惚れる女性というのは、当然トゥエインにとっても魅力的でなければならない。ここで、トゥエインにとっての理想の女とはどのような人物であったかを考えてみたい。まず思い付くのは、トゥエインの妻の存在である。トゥエインの妻は白人商店主であるジャービス・ラングドンの娘であった。先に延べた通りジャービスは熱心な奴隷解放論者であり、また元逃亡奴隷のフレデリック・ダグラスとの交友があった。このようなエピソードがある。 トゥエインは、ダグラスに会った時に強烈な印象を受け、彼の人間的な偉大さに感動した旨をオリビアに書き送っている....ダグラスから受けた感動を、許嫁オリビアに素直に伝えることができたことは、オリビア自身の人種的偏見のなさを逆に証明しているとも言えるだろう。池上日出夫「アメリカ文学の源流 マーク・トゥエイン」(P.54)トゥエインはオリビアに信頼を置いていて、彼女からの影響は計り知れないものがある。1867年彼は女性の婦人参政権に強く講義をしていた。しかし、オリビアとの結婚後には女性の政治への参加を擁護するようになってきたのである。では、トゥエインはなぜ奴隷解放支持者である娘に興味を持ったのか?それはもう少し時代をさかのぼってみる必要がある。彼の少年時代は黒人を奴隷とするのは当たり前で、彼の父は白人の奴隷制廃止論者にたいして12年の実刑を言い渡したこともある。そんな社会において彼の母親はトゥエインにとって大きな影響を及ぼした。トゥエインが子供の頃一人の黒人少年が毎日歌を歌ったり騒いだりしているのをトゥエインは止めさせてくれといった。すると母親は目に涙を浮かべこういった。 あの奴隷少年が歌を歌う時には、(両親や兄弟から引き離されている悲しみを)思い出さない様にしているのだよ....あの子はもう二度と母親とはあえないだろうし、歌って気が紛れるのであれば、それを止めさせるのではなくて、むしろ、そのことに感謝しなくてはいけないよ....Charles Neider, The autobiography of M.T. (Chatto&Windus, 1960)Ch.2まだ奴隷制が当たり前であったこの時代にトゥエインの母はかなり進歩的な考え方をしている。こういう母親だったからこそ、妻となるオリビアに惚れたのではないか。元々男というのはマザコンだと聞く。トゥエインの理想の女性とは母親であったのだろう。自分の分身であるハックが黒人にたいして優しさを持つメアリーに惚れるのも当然のことなのである。 最後に、トゥエインが性差別主義者だったかということだが、それはまったくの言いがかりではないのか。確かに、批判的でこっけいに書かれている部分もある。しかしそれは黒人の場合も白人の場合も同様である。王様と公爵は白人の場合の最たるものではないか。 トゥエインが性差別者や、人種差別者であると疑われるのは、彼自身のユーモアとアイロニーのせいだろう。最後に彼自身への皮肉で締めくくりたい。最初から2番目の引用には続きがある。 彼の父親が亡くなった次の年の夏、町でははしかが流行し、毎日子供が死んでいった。子どもたちは病気にかからないように家の中に閉じ込められて、一歩も外に出られなかった。トゥエインは、こんな不自由で、きゅうくつで、惨めな生活をしなければならないのであれば生きている価値がないと思って,まさしくトム・ソーヤーやハックルベリ・フィンのように、密かに家を抜け出して、遊び友達を訪ねていく。だが見つかってしまい、その上に病気を移されて二週間ばかり死の縁をさまよわなければならなかった。結局奇跡的に命をとりとめ人々をがっかりさせることになった。池上日出夫「アメリカ文学の源流 マーク・トゥエイン」(p.20) |
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