Seminar Paper 99

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Noriko Fujisaki

First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000

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「Adventures of Huckleberry Finnにおける黒人問題」
トウェインの考える'to do right'

Adventures of Huckleberry Finn は、白人少年ハックと黒人奴隷ジムの冒険物語である。ハックとジムはこの冒険を通じ、19世紀のアメリカにおける人種という壁を越えて、固い友情を育んでいく。この友情から読み取れるハック、つまりこの物語の著者であるマーク・トウェインの奴隷制度に対する思いはどのようなものであるのだろうか。

次の3つの観点から、トウェインの奴隷制度に対する思いを分析していき、結論づけたいと思う。

@19世紀アメリカにおける白人秩序社会から見た黒人奴隷とそれに対するトウェインの考え

Aジムとハックの友情の芽生え

Bハックの道徳的葛藤

@19世紀アメリカにおける白人秩序社会から見た黒人奴隷とトウェインの考え

フランス人がフランス語を話すことが分からないジムにハックが説明するところで(14章)、「牛や猫が自分達とは違う話し方をするように、フランス人も違う話し方をするのだ」と説明するハックに、「牛や猫は人間ではないけれど、フランス人はどうして人間の話し方をしないのか」と返すジム。ハックはこれを"I see it warn't no use wasting words you can't learn a nigger to argue."(p. 90)と終わらせている。このことから、当時「白人は黒人より頭が良い」と考えられていたことが分かる。それに対し、ジムの言葉には「人間は皆同じだ」ということが暗示されている。

同じ14章では、ジムの頭の良さが表れている。ソロモン王は賢い人だったか、というハックとジムの議論で、ジムは無知だけれど論議だっているのに対し、ハックのほうはダグラス未亡人がそう言っていたから、と言っているだけで説得力がない。「白人は黒人より頭が良い」というのは 'fiction'なのだというトウェインの考えが伺える。

ジムの脱出計画を話し合っている際(36章)、トム(ハックの友達)は本に載っている通りにやりたいためにばかばかしいことを言い出す。そのときのジムの反応は次のようである。

"... , but he allowed we was white folks and knowed better than him; so he was satisfied and said he would do it all just as Tom said."(p. 256)

「白人は黒人より頭が良い」ということは白人だけでなく、黒人も思わされていたことだということが分かる。しかし直前の "Jim he couldn't no sense in the most of it."(p. 256)というところから、やはりそれは 'fiction'なのだ。

ジムが家族のことを思って悲しんでいるのを見て(23章)、ハックは"I do believe he cared just as much for his people as white folks does for thein. It don't seem natural, but I reckon it's so."(p. 170)と言っている。黒人が白人と同じように家族を思うことは"natural"だと思われていなかったのだ。しかし、ジムは家族のことを思って、ホームシックにかかっている。これにより、「黒人は白人と同じように家族を愛することはない」という当時の白人秩序社会の考えは覆されている。

ハックはジムを逃がして自由にするためにフェルプスさんの家へ行く。(32章)

"And behind the woman comes a little nigger girl and two little nigger boys, without anything on but tow-linen shirts, and they hung onto their woman's gown, and peeped out from behind her at me, bashful, the way they always do. And here comes the white woman running from the house...and behind her comes her little white children, acting the same way the little niggers was doing."(p. 229)

黒人の子供がよくする、母親の陰に隠れてこちらを見る、ということを白人の子供もしている場面である。白人も黒人も子供の頃は同じことをするのだ。つまり、白人は生まれながらにして黒人より頭が良く、優れている、という考えは白人秩序社会の作り物なのだ。

Aハックとジムの友情の芽生え ロフタス夫人により、ジムの懸賞金目当てにジャクソン島に追手が来ることを知ったハックは、"...They're after us! "(p. 72) とジムに知らせる。それまで'I'という一人称で語りつづけていたハックが、ここで初めて'us'を使った。これは、ハックがジムを黒人奴隷としてではなく、一人の自分と同じ人間だと認識したことの現われであろう。

ハックとジムは霧によってはぐれてしまう(15章)。ハックが先にジムを見つけると、「ハックが無事で本当に良かった」と喜ぶジムに対し、「おまえは夢を見ていたんだよ」とからかう。すっかりその“夢”を説明した後、ハックがジムを悪戯でだまそうとしていたことを知ったジムは怒ってしまう。それでハックは自分を本気で心配してくれたジムを騙そうとし、傷つけてしまったことをとても後悔する。

"It made me feel so mean I could almost kissed his foot to get him to take it back. It was fifteen minutes before I could work myself up to go and humble myself to a nigger-but I done it, and I warn't ever sorry for it afterwards, neither. I didn't do him no more mean tricks, and I wouldn't done that one if I'd a knowed it would make him feel that way."(p. 95)

Bハックの道徳的葛藤 16章でハックは初めて良心の呵責に悩まされる。ジムが自由を目前にし、自由になったらしたいことを言い始めたあたりから、ハックの葛藤は始まる。ハックの白人秩序社会に犯された良心に従えば、逃亡奴隷ジムのことを密告することになる。ハックがジムに対して友情を深く感じるようになったからこそ、ハックの心中での葛藤は辛いものになってしまった。ハックがジムのことを密告しようとカヌーを漕ぎ出すと、"you's de bes' fren' Jim's ever had; en you's de only fren' ole Jim's got now."(p. 111)などと言われてしまったものだから、密告する決心が揺らいでしまったのだ。"I was paddling off, all in a sweat to tell on him; but when he says this, it seemed to kind of take the tuck all out of me."(p. 111)

そして、逃亡奴隷を探しているカヌーに乗った男に"Is your man white or black? "(p. 111) と聞かれ、

"I didn't answer up prompt. I tried to, but the words wouldn't come. I tried, for a second or two, to brace up and out with it, but I warn't man enough-hadn't the spank of rabbit. I see I was weakening; so I just give up trying, and up and says- "(p. 111)

ハックの心の葛藤は頂点に達した。そして、ジムを裏切る「兎ほどの勇気」さえないことを知り、"He's white."(p. 111)と答えるのである。そう答えた後のハックの気持ちは"They went off, and I got abroad the raft, feeling bad and low, because I knowed very well I had done wrong..."(p. 113)と、かなり落ち込んでいる。そして、"s'pose you'd a done right and give Jim up; would you felt better than what you do now?"(p. 113)と自問するが、答えは"No, says I, I'd feel bad-I'd feel just the same way I do now."(p. 113)なのである。やはり、ジムを裏切ることはハックにとって気分が良いことではない。ならば、"So I reckoned I wouldn't bother no more about it, but after this always do which ever come hardiest at the time."(p. 113)と決心する。しかし、ここでは「『正しいことをしても悪いことをしても報いが同じだから』、手っ取り早い方法を取る」ことにしたのであって、白人秩序社会の良心(ジムの逃亡を密告すること)にまだ打ち勝ってはいない。それゆえ、31章でもまたハックの良心の呵責が起こる。

ジムの持ち主であったワトソン夫人にジムの居場所を教える手紙を書くと、ハックは良いことをしたと思い、気分が良くなる。"I felt good and all washed clean of sin for the first time I had ever felt so in my life."(p. 222)しかし、ジムと一緒に川を下ってきたことを回想すると、ジムに対して良い感情を抱いたことばかり思い出し、悪い感情を抱いたことは思い浮かんでこない。

"'All right, then, I'll go to hell'-and tore it up.It was awful thoughts, and awful words, but they was said. And I let them stay said; and never thought no more about reforming. I shoved the whole things out of my head; and said I would take up wickedness again, which was in my line, being brung up to it, and the other warn't. And for a starter, I would go to work and steal Jim out of slavery again; if I could think up anything worse, I would do that, too; because as long as I was in, and in for good, I might as well go the whole hog."(p. 223)

ハックはここで白人秩序社会の良心に完全に打ち勝つのである。ハックのジムに対する友情が人種を越え、勝利をおさめた。ハックの言う'to do wrong'は、人間本来の'to do right'なのではないか。白人秩序社会における'to do right'はジムの逃亡を告げ口することだが、白人秩序社会に染まっていない子供の感じる'to do right'つまり人間本来あるべき'to do right'はジムを逃がすことなのだ。

@、A、Bを通じて分かるトウェインの奴隷制度に対する考えを結論づけたいと思う。

トウェインはハックの口を通じ、白人秩序社会の信じる白人と黒人の能力差というものに疑問を投げかけ、奴隷制度に対する反発を示している。黒人奴隷ジムは聡明で、妻や子供を愛し、ハックのことを友愛するとても優しい心の持ち主である。白人に劣るところはない。それゆえ、「黒人より白人のほうが優れている」という考えは'fiction'である。そして、ハックはジムに対して徐々に深い友情を感じるようになり、ジムと自分を同一視するようになる。つまり、白人と黒人は何も変わりはない、全く同じなのだ。また、ハックのジムに対する友情が白人秩序社会の良心に打ち勝ったことが示すのは、人間本来の良心における'to do right'が、「ジムの逃亡を告げ口することではなく、ジムを逃がすこと」なのだということであり、奴隷制度に反発するトウェインの考えが分かる。


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