Seminar Paper 99

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Mai Nakanishi

First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000

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Adventures of Huckleberry Finnにおける黒人問題
ジムの価値について

 この作品が取り上げられる時、作者マーク・トゥエインが黒人差別主義者かどうかが問題とされることがある。主人公ハックルベリー・フィンと黒人奴隷ジムを主軸として展開する冒険物語だが、その中でジムは、ハックを始め、他の登場人物たち、特に白人たちにどう扱われているか、そして様々な冒険を経る過程でのハックのジムに対する気持ちの変化、その他物語の中の黒人と白人の性質、描写の違いなどを見つつ、トゥエインが伝えたかった彼らの本当の姿について考えてみたい。

 まず、ジムという黒人奴隷の人となりを説明せねばならない。  ジムは奴隷なので、白人から親切にされたり、お金をもらったりするのがとてもうれしい。純粋で、他人の喜びを自分のものにできる人物である。ハックのような子供相手にもよい話し相手となることができる。少し頑固なところもあるが、それは無知からくるもので、人間的にはとてもよい男である。ただ、それが黒人奴隷というだけで、その人権が侵害される場面が数多くでてくる。

 例えば、ハックが自分の偽装殺人を実行した夜、たまたまほとんど同じ時期にいなくなったハックの親父とジムのうち、やはり犯人はジムと判断され、高い懸賞金がかけられる。ひどい酔っぱらいで浮浪者であるpoor white、手がつけられぬ悪評高い親父より、いなくなったという理由のみで、ハックと友達だった黒人ジムが容疑者となってしまう。ジムとしては、雇い主であるミス・ワトソンが、彼を奴隷の地獄である最南部に800ドルで売り飛ばすつもりと聞いて、恐怖のあまり家を飛び出してしまっただけなのだ。普段からこき使われてはいたが、オーリーンズへは売ったりしないと聞かされていただけに、ジムのショックはすごかったに違いない。彼のとっさの行動には同情の余地があるだろう。そしてこのことについてトゥエインはハックにこういわせている。

"Well, I did. I said I wouldn't, and I'll stick to it. Honest injun I will. People would call me a low down Ablitionist and despise me for keeping mum but that don't make no difference." (p. 55)

その言葉通り、そんなことはどうでもいいことなのである。それこそが、逃亡奴隷をあえて捕まえないという最低の奴隷制度廃止論者であろうが、本来あるべき人の姿である、といいたいのだろう。またジムは、自分自身で風刺的な発言をしている。

"Yes en I's rich now, come to look at it. I owns mysef, en I's wuth eight hund'd dollars. I wisht I had de money, I wouldn' want no mo'." (p. 58)

これにより、人をお金に換算することのばからしさ、つまり、奴隷制自体を批判しているように思われる。

 また、のちに出てくる悪徳詐欺師の王様と公爵は、あちこちで詐欺を働いて追われている所を、ハックとジムをつかまえ、彼らのいかだに寄生し、まんまと逃げおおせた。いかだの上では逃亡奴隷であるジムも財産であり、他の奴らに盗られたくない2人は、ジムを既に捕まった奴隷として運んでいることを装って、日中は手足を縄で縛っていかだに残して出かけていく。今までのように昼間休んで夜人目を忍んで河を南下していくやり方では自分たちの詐欺ができないため、昼でも河を下れるようにしたかったからだ。また、日中縛られているのがつらいと訴えたジムに、今度は病気のアラブ人に仕立て上げ、ドーランで顔を塗りたくり、恐ろしい化け物の格好をさせて、"Sick Arab but harmless when not out of his head."(p. 171)と看板を立て、これで誰も寄ってこないとみな安心する。しかし、考えてみると、本来お縄をちょうだいするべき詐欺師たちが逆にジムを(逃亡奴隷とはいえ)縛り上げ、いかだを乗っ取り、召使いのように2人をこき使っている様子は、この看板の文とは正反対にharmlessどころか大いにharmfulといわざるを得ず、しかもそこには悪意すら含まれているようにも見えるだろう。

 のちにジムはこの2人の詐欺師によって、ハックに内緒で、トム・ソーヤーの叔父であるフェルプスの所へたったの40ドルで売り飛ばされる。金に困り、飲み代ほしさのために、本物の召使いのように仕えていたジムを二束三文で勝手に売ってしまう。2人の非常に行き当たりばったりで刹那的な考え方や生き方が読みとれるだろう。ここでのジムは、物同然の扱いである。そして同時に、子供であるハックも、友人、あるいは父親のように慕っていたジムと引き離されて、今までの努力を踏みにじられ、心を傷つけられる。そしてこの闖入者たちにほとほと愛想がつき、もう二度と関わるまいと誓うのである。

 そして極めつけといえるのが、フェルプス農場でのジム救出作戦におけるトム・ソーヤーの我が道を行く自分勝手な冒険ぶりである。ハックは叔父のもとへ遊びに来たトムと偶然遭遇し、ジム奪取計画を打ち明ける。だがトムは、ミス・ワトソンが亡くなり、その遺言でジムを奴隷から解放し自由にしたという事実を知りながら、自分が本にでてくるような冒険をしたいがために、2人を始め、村を巻き込み大救出劇を敢行する。ジムは逃亡奴隷として農場の小屋に入れられているものの、十分な食べ物など与えられ、不自由なく暮らしていたが、トムはそれを許さない。囚人としての様々な課題を与えて、自らの理想の逃亡劇に近づけようと必死である。こう見ていると、目的のために手段を選ばず周りの人のことは目に入らないところなど、王様と公爵らとさほど変わり映えしない。明らかに、人間をおもちゃにしているとしかいえないのではないか。だが、聡明で家柄もよく、立派な教育を受けているトムの提案がすべてすばらしく感じられる2人にとって、それらを拒否する理由はどこにも見つけられない。トムの、ジムを奴隷の身分から解放してやるという目的が本物であるとわかって,$$$k%O ックとジムは、トムの"育ちの良さ"というベールに目をくらまされ、トムの自分勝手でしかも危険な冒険ごっこに気づかない。それを知ってか知らずか、トムは自分のしでかしている人権侵害ゲームを、自ら描いたフィナーレまで持っていこうとやっきだ。しかしその危険極まりないゲームも、トムの負傷によって強制的に幕を下ろされる。

"Well, den, dis is de way it look to me. Huck. Ef it wuz him dat'uz bein' sot free, en one er de boys wuz to git shot, would he say, `Go on en save me, nemmine 'bout a doctor f'r to save dis one?' Is dat like mars Tom Sawer? Would he say dat? You bet he wouldn't! Well den is Jim gwyne to say it? No, sah I doan' budge a step out'n dis place, 'dout a doctor ; not ef it's forty year!"(p. 279)

ジムのこの説得によりやっと冒険の計画をあきらめたトムだが、これらの計画の中に、ロマンチックな世界から借りてきたフィクションと、それを実現するためには何をしてもいいという子供の残酷さが表裏一体となり、空恐ろしさを感じずにはおれない。

 これらの物語を通して、ジムの扱われかたを見ていくと、やはり彼は人間である前に黒人奴隷、しかも逃亡奴隷としてしか考えられていないことがわかる。しかし、ジムの人物像を見れば、物語中の白人たちよりもよほど温かく人道的で、思いやりがあり、なにより人間的である。酒を飲み、酔ってはハックを虐待し、金をせびる浮浪者の親父、詐欺を働き、私利私欲のみを追い求め、とうとう捕まってリンチにあう王様と公爵。その他のほとんどがまるでジムと対称的に描かれているように思えてならない。また、トゥエインの代弁者ともいえるハックのジムに対する気持ちも、初めはそれこそただの黒人奴隷と白人の子だったものが、一緒に旅をし、大きな目的に向かって進んでいく課程でそのこころが一つになり、ハックをして地獄へ堕ちてもかまわないとまでいわしめる。自然児としての正直さと、世間一般の"sivilize"された良心に包まれている矛盾をこの決断により打ち破り、とことんジムと運命を共にしようと覚悟を決めたのだ。  このように決定的な友情が黒人と白人の間に生まれたということから、何が考えられるか。ハックとジムが固い絆で結ばれたということからみると、その他周りの白人たちの軽薄で酷い態度がありありと浮き彫りにされてくるようだ。そして、その立場は、はたして 覆されてもおかしくはないのではないか。トゥエインのそんな黒人観からこの物語は作られたのではないかと感じずにはいられないのである。


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