Seminar Paper 99

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Kumiko Watanabe

First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000

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Adventures of Huckleberry Finn における黒人問題」
ジムがハックを教育する?

    「ハックルベリー・フィンの冒険」は白人ハックと黒人ジムが筏で自由州へと逃亡していく話である。異なる人種の二人が旅をしていく時、ジムがハックに及ぼす影響、そしてそれは作者のどのような意図からくるものなのか考えていきたいと思う。

     二人の旅でハックに最初に起きた変化は、ジャクソン島に隠れているのが退屈になってきて、町の様子をうかがってこようとしたところから始まる。ジムの提案によりハックは女装をして、町はずれのミセス・ロフタスの家を訪ねるが、女装を見破られてしまう。彼女は見破った理由をハックの芝居がへたくそだからだと言う。また、男なら騙されるかもしれないとも言っている。ということは、ミセス・ロフタスの指摘した女性らしくない点を直せば、ハックが男の子であることは分からなくなるかもしれない。それはすなわち、男女の差は女性らしさ、男らしさで区別されているにすぎないということだ。この「らしさ」というのは、生まれつき備わっているものではない。社会で生活していくうちに後天的に備わっていくものなのだ。では、白人と黒人の違いはどうなのであろうか。ハックは意識的にではないが、このことを考えたと思われる。それが、ミセス・ロフタスから知り得た、追っ手がかかっているという情報をジムに知らせる際に言葉として表面に出てきている。

"Git up and hump yourself, Jim! There ain't a minute to lose. They're after us!" (p.72)

ハックは自分が追われているわけではないのに、They're after us!と言っている。無意識に自分とジムを同等にとらえているのだろう。     二人の旅は続く。旅の途中で二人が討論をするシーンが出てくる。それは、ソロモンが「どちらが子どもの母親であるか」を証明した話についてである。civilizeされていないジムはnatureの自由な視点から、説得力のある論をハックへと投げかけている。

"Blame de pint1 I reck'n I knows what I knows. En mine you, de real pint is down furder it's down deeper. It lays in de way Sollermun was raised. You take a man dat's got on'y one er two chillen: is dat man gwyne to be waseful o' chillen? No, he ain't; he can't 'ford it. He know how to value 'em. But you take a man dat's got 'bout five million chillen runnin' roun' de house, en it's diffunt. He as soon chop a chile in two as a cat. Dey's plenty mo'. A chile er two, mo'er less, warn't no consekens to Sollermun, dad fetch him!" (p.88)

    ジムはソロモンの話を間違って理解しているが、重要な点はそこではない。ジムはここで、de way Sollermun was raisedと言っている。これには、人間の考えは育つ環境によって変化し得るということを暗に言っているのではないかと思う。Civilizeされる過程で、黒人に対する人種差別が起こっているのだとハックに知らせたいのだろう。しかし、ハックはこのジムの意図を理解しきれていない。

I never see such a nigger. If he got a notion in his head once, there warn't no getting it out again. He was the most down on Solomon of any nigger I ever see. (p.89)

もしかしたら、ハックは理解できないのではなく、受け入れることができないのかもしれない。だからここでハックはniggerという言葉を使っているのではないだろうか。      ケーロへ向かう最中にも二人の間にひと悶着起こる。ハックがカヌーで流されてしまった時に、ジムはひどく心配するが、ハックはそんなジムに対し、夢を見たのではないかとからかう。するとジムは腹を立てる。それに対してハックはこのように考える。

It made me feel so mean I could almost kissed his foot to get him to take it back. It was fifteen minutes before I could work myself up to go and humble myself to a nigger but I done it, and I warn't ever sorry for it afterwards, neither. I didn't do him no more mean tricks, and I wouldn't done that one if I'd a knowed it would make him feel that way. (p.95)

この時代のcivilizeされた白人が黒人の足にキスをしてもいいと考えることはなかっただろう。ハックはそれくらい深く後悔していたのである。そしてジムに謝ったことを後悔していないと明言している。けれども残念なことに、ハックはまだniggerという言葉を使っている。ジムを友達だと思ってはいるが、黒人であるということを拭い切れていないのである。ハックは自分の心が正しいのか自信が持てない。その不安が、次の章で心の葛藤として出てくる。

     もうすぐケーロに着くというところで、ジムがはしゃぎだした。彼は働いて自分の家族を取り戻すと言い、所有者が売らないければ、奴隷反対派の人に頼んで、盗んできてもらうと言っている。ハックはこのジムの言い様に驚きを隠せないでいる。

It most froze me to hear such talk. He wouldn't ever dared to talk such talk in his life before. Just see what a difference it made in him the minute he judged he was about free. It was according to the old saying, "give a nigger an inch and he'll take an ell." Thinks I, this is what comes of my not thinking. Here was this nigger which I had as good as helped to run away, coming right out flat-footed and saying he would steal his children children that belonged a man I didn't even know; a man that hadn't ever done me no harm. (pp. 110-111)

ハックのcivilizeされた白人の部分が前面に出てきてしまっている。今までのジムとの友情はどこへやらである。ジムのことよりも、白人の方の心配をしている。そして、I was sorry to hear Jim say that, it was such a lowering of him. (p.111)と、友達という意識からまた黒人奴隷扱いに逆戻りしている。社会から除け者にされるのを防ごうとする保身の気持ちが働いているのである。しかし、手放しでハックに感謝するジムに心のとまどいを感じる。結局この章ではハックはジムのことを密告できずに終わる。密告できなかったのは、civilizeされた心よりもnatureの心の方が勝ったからであろう。しかし、ハックはこれを深くは考えないようにしている。

     31章で不安の心が再びcivilize と nature の心の葛藤が起こる 。ここでハックは自分の心と正面から向き合うことになる。もしジムが連れ戻されたら自分は社会の除け者にされてしまうと苦しみ、良心に苛まれる。けれどもそこで、旅でのジムのことが思い出されてきた。

It was a close place. I took it up, and held it in my hand. I was a trembling, because I'd got to decide, forever, betwixt two things, and I knowed it. I studied a minute, sort of holding my breath, and then says to myself: "All right, then, I'll to hell" and tore it up. It was awful thoughts, and awful words, but they was said. And I let them stay said; and never thought no more about reforming. I shoved the whole thing out of my head; and said I would take up wickedness again, which was in my line, being brung up to it, and the other warn't. And for a starter, I would go to work and steal Jim out of slavery again; and if I could think up anything worse, I would do that, too; because as long as I was in, and in for good, I might as well go the whole hog. (p. 223)

ハックはここでジムを助ける決心をする。社会では悪の道とされているが、自分が正しいと思ったのだから、とことんまでやった方が良い。ハックは自分の心にこのような結論を出した。彼は未だ社会に潰されそうな不安を抱えながらもジムと友達である方を選ぶのである。 ジムが捕まっている農場に行きそこで偶然、トムと出会う。ハックが自分の決心を打ち明け、知らないふりをしてくれと頼むと、トムは自分も手伝うと言う。ハックは衝撃を受ける。

"I'll help you steal him!" Well, I let go all holts, then, like I was shot. It was the most astonishing speech I ever heard and I'm bound to say Tom Sawyer fell, considerable, in my estimation. Only I couldn't believe it. Tom Sawyer a nigger stealer!" (p.235)

    ハックはcivilizeされたトムがnatureの心に従い奴隷逃亡を助けることはトムの価値を下げていると思っている。ハックはcivilizeされている人間が黒人と友情を持つことは不可能だと思っている。ハックは自分が完全にnatureの側に立つことによって、ジムとの友情を保とうとしているのだ。それが、トムの予想外の行動によって、崩されようとしている。ハックはこの事を最後までひきずっている。トムがジムはもう奴隷ではないと知っていたのだと分かった時に、and I couldn't ever understand, before, until that minute and that talk, how he could help a body set a nigger free, with his bringing-up.と、やはり自分の考えは正しかったと納得したのだ。

     以上のことから、作者トウェインは、人種差別の問題はcivilizeされる前のnature の段階で改善していかなければならないもので、ハックのようなnatureの側の存在が少ない世の中では難しいと考えているのだと思う。人種差別についてこの物語の中で深く取り組んでいるトウェインを私は、非人種差別主義者と考える。


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