Seminar Paper 99
Takako Yamaoka
First Created on December 31, 1999
Last revised on January 17, 2000
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「Adventures of Huckleberry Finnの女性たち」
家から出られない女たち
この「ハックルベリー・フィンの冒険」という物語は、マーク・トウェインの代表作である。マーク・トウェインは鋭い観察眼と、洞察力そして辛辣な言葉を、主人公であるハックに与えている。この物語は、ハックルベリー・フィンが、社会の常識や規範から逃れようと、ミシシッピー川を逃亡奴隷ジムと共に下っていく冒険物語だ。自由と解放を求めて川を下るハックは、冒険の中でまた、たくさんの人と出会っている。そして、それぞれの人との関わりや出来事のなかで、彼なりの人生観や、人間観が描かれている。 そんな物語の中で、たくさんの人が登場するにも拘わらず、女性の登場人物が少ないし、登場してくる場面というのも少ない。女性があまり描かれていない。そんな印象を、この物語から受けるのだ。そこで、この物語の中での女性たちの描かれ方をみていこうと思う。一人一人、女性がどのように描かれているのか読み解いていくことで、作者がどのように女性というものを見ていたのか、また、この物語の中では女性が、どのような位置にあるのかについて、見えてくるのではないか。 まず、最初に登場するのがThe widow DouglasとMiss Watsonだ。Widow Douglas は、ハックを養子として育てようとした。浮浪者のような生活をしていたハックを引き取り、きちんとした身なりをさせて、教育をしようとした。ハックの言葉を借りれば、"….she would sivilize me;…"(p,13)である。また、彼女の妹であるMiss Watsonもいろいろと口やかましくハックに言うのだった。 "Don't put your feet up there ,Huckleberry ;"and "don't scrunch up like that ,Huckleberry−set up straight ;" and pretty soon she would say , "Don't gap and stretch like that ,Huckleberry−why don't you try to behave ?"(p,15) 彼女もまた、ハックに文字を教えようと、スペリング・ブックを与えたりする。社会の中で、社会の一員として生きていくとは、身なりを整え、行儀よく振る舞うこと。教養を身につけ、書物から教訓を得ることをおぼえる。そして、神に祈りを捧げる。つまり、規制と束縛の中で生活していくことだ。さまざまな事を強要される生活の中でハックはこのように思う。"All I wanted was to go somewhere; all I wanted was a change ,I warn't particular."(p,15)ハックは自由を求めていた。 ここで描かれている、widow Douglas と Miss Watson の二人の女性は、作法や常識を重んじる存在だ。社会の中に、うまく適応していく為にルールを大切に生活していく。生活の基盤となるルールや規範をきちんと守り、他人にもそれを要求していく。ここでは、女性は、模範的な生活者として描かれている。 次に、登場するのがMrs.Loftusだ。彼女は、ハックがジムと共に、筏に乗って逃亡の旅を続ける途中に出会った女性だ。ハックとジムは川を流れてきた家に中に女性の服があるのを見つけた。ハックはその服を着て、女装をして様子をうかがいに出かける。そして話を聞き出そうと立ち寄った家にいたのが、彼女だった。彼女は、ハックは殺されてしまって、その犯人はジムであると、街では噂されていることなどを話してくれた。 初めのうちは、普通に話をしていた彼女だったが、ハックの行動を見て、不審に思い始めた。 I had got so uneasy I couldn't set still. I had to do something with my hands; so I took up a needle off the table and went to threading it. My hands shook, and I was making a bad job of it. When the woman stopped talking, I looked up, and she was looking at me pretty curious, and smiling a little. (P,69) ハックの何気ない行動に、彼女は注目する。そして今度は、彼女から、ハックを試すようなことをする。まずは、ハックに、ねずみを狙って棒を投げさせ、そしてハックの膝の上に物を落とした。 So she dropped the lump into my lap, just at the moment, and I clapped my legs together on it and she went on talking. But only about a minute. Then she took off the hank and looked me straight in the face, but very pleasant, and says; "Come, now -what's your real name?" (P,70) 彼女は、ハックの行動から、実はハックが男の子であることを見抜いたのだ。彼女によれば、女性というのは、針に糸を通すとき、針をしっかりと持って糸のほうを動かすものであり、物を投げるときは肩を使って投げ、膝で物を受けるときは、膝を閉じるのではなく、膝を開けるのだそうだ。また、女性らしさというのは女性が一番よく知っている、つまり意識して女らしさを振舞っていると、語っている。彼女は、観察力と洞察力とを持った女性として描かれている。 次に、ハックが出会うのが、Miss Sophia だ。ジムとはぐれてしまったハックが、たまたま行き着いたGrangerford家の娘だ。彼女には、五歳年上の姉Miss Charlotte がいる。ハックは彼女の容姿について、美しいと言い、またMiss Sophiaについて、次のように言っている。"So was her sister, Miss Sophia, but it was a different kind. She was gentle and sweet, like a dove, and she was only twenty."(p,126)ハックが気に入る女性というのは、たいてい、美しくそして、優しい。 ハックが出会ったこのGrangerfordという家は、一見、洗練された上流家庭のように見える。Col.Grangerfordは、人々からの信頼も厚い人柄の持ち主であるし、日曜日には必ず、家族で教会へ行き説教を聴く。しかし、実際はShepherdson家との間に時には死人まで出てしまうような、激しい対立をしている。そんな対立に、ハックは心ならずも巻き込まれてしまう。 Grangerford家の人々は、いつものように教会に行く。ハックも、彼らに連れられていっしょに教会へ行く。その晩、夕食の後、ハックが部屋に戻ろうすると、ドアのところにSophiaが立っていた。そして、彼女はハックにある頼み事をしようとする。"・・and she took me in her room and shut the door very soft, and asked me if I liked her, and I said I did; she asked me if I would do something for her and not tell anybody, and I said I would."(p、129)こう言って、彼女は口止めをし、頼み事を口にする。彼女は、聖書を教会に忘れてきてしまったから、それを取ってきて欲しいという。ハックは、言われた通り誰にも、何も言わずに教会へ向かい聖書を取ってきた。その聖書を開いてみると、小さな紙切れがはさんであった。それには、鉛筆で、"Half-past-tow"と言う文字が書いてあった。ハックは、その紙を戻して、彼女に渡した。そして、彼女は、ハックを抱きしめて、"the best boy in the world"といって、再び口止めをする。その紙切れを見た彼女の表情を見て、ハックは次のように言っている。 "She was mighty red in the face, for a minutes, and her eyes lighted up and it made her powerful pretty."そこに書いてあったメッセージは、彼女に、喜びを運ぶものだった。次の日になると、その紙切れと彼女の喜びの意味がようやく分かる。 Sophiaは、young Henry Shepherdsonと駆け落ちをしてしまう。あの紙切れは、落ち合う時間を書いたものだった。しかし、このことが引き金となり、普段からけん制しあっていた両家は、ついに衝突をしてしまう。それは、激しい、また血生臭く醜い戦いであったため、ハックは多くを語ることを避けている。 Sophia は自由を求めて、自ら行動を起こす女性だ。自由を求めて、周囲の抑圧から逃亡する。これは、ハックがしていることと同じである。しかし、ハックは彼女のこの計画に手を貸す結果となってしまったことに、後悔している。 I judged that piece of paper meant that Miss Sophia was to meet Henry somewhere at half-past two and run off; and I judged I ought to told her father about that paper and the curious way she acted, and maybe he would a locked her up and this awful mess wouldn't ever happened.(p,134) 残忍な場面を見てしまったハックは、ショックを受けたのであろう。しかし、この発言は、Sophiaの行動は失敗に終わってもよかったと取れる。彼女の行動は、自由を求めて筏で川を下っているハックにとって、共感できるものではなかったのか。これには、やはり作者である、トウェインの考え方の偏りがあるように思える。自らの分身、ハックには逃げるための冒険をさせるのに、女性が同じことをしようとするとあまり良い顔をしない。社会の規範を犯して冒険に繰り出すのは、やはり男性の特権であり、女性は抑圧の中でも耐えていかなければならないのだ。 ハックが次に出会う女性、Mary Janeは、トウェインにとっては理想の女性像と言えるのではないか。なぜなら、ハックが彼女に恋をするからだ。 旅の途中、筏に乗り込んできたペテン師kingとdukeがたまたま出会った男の話を聞きつけて、悪事を計画する。その男の話によると、ある街で、財産をもっているPeter Wilks と言う男が死に、葬式は明日だと言う。そして彼には、いまイギリスに住んでいる弟がいる。Kingはここに目をつけた。その弟になりすまして、財産を騙し取ろうと考えた。そして、そのPeter Wilksの娘が、Mary Janeとその妹二人の三姉妹だった。ハックは、Mary Janeについて次のように述べている。"Mary Jane was red-headed, but that don't make no difference, she was awful beautiful, and her face and her eyes was all lit up like glory・・"(p,177)彼女もやはり、美しかった。Kingとdukeは悲しみに暮れる、姉妹たちを難なく騙すことが出来た。 彼女は、優しさも持ち合わせていた。ハックは、弟になりすましたkingの小間使いと言う嘘をついていた。そんなハックに、三女のhare-lip は、いろいろと質問をする。イギリスからきたという事になっているから、彼女はイギリスについて、好奇心でいろいろと聞いてくる。しかし、ハックはイギリスには一度もいったことがない。質問攻めに合ううち、得意の嘘もほころんでくる。hare -lip は、ハックの曖昧な受け答えに疑いを強めていく。ついには、彼女は、ハックに宣誓を求めてきた。本当の事を言っているのなら、宣誓が出来るはず、と聖書ではなく辞書を持ち出した。"I see it warn't nothing but a dictionary, so I laid my hand on it and said it "(p,187)そういってハックは宣誓をする。しかし、そこに登場するのが、Mary Janeだ。彼女は妹の行動を、たしなめる。 "What is it your won't believe, Joe? "says Mary Jane, stepping in, with Susan behind her. "It ain't right nor kind for you to talk so to him, and him a stranger and so far from his people. How would you like to be treated so?"(p,187) Mary Janeはハックのことを疑うどころか、ハックの身の上を心配していた。ハックはこの優しさに心を打たれた。今まで、彼は人から、疑われたり責められたりした事はあっても、人から信用されたり、かばってもらったことなどなかった。初めて、人から信用され、またMary Janeの優しさに触れて、自分の嘘を恥ずかしく思った。そしてハックは決断する。"・・I says to myself, My mind's made up; I'll hive that money for them or bust."(p,188) 今までの行動を悔いて、改めることを決断した。 ハックにそのような決断をさせたのはMary Janeの存在があったからだ。自分のことを信頼して、守ってくれる。それはつまり、母親の存在である。母親を知らないハックはMary Janeの母性に触れて感激する。トウェインも、母性というものは、女性の中に存在する重要な要素であると考えている。 Mary Janeは誰に対しても、その優しさを惜しむことはない。財産を騙し取ったkingは、家の黒人奴隷たちを売り飛ばして、現金にかえてしまった。Mary Janeは黒人たちと、涙を流し抱き合って、別れを悲しんだ。あまりに悲しむ、心優しい彼女の姿にいたたまれなくなったハックは、さらに大きな決断をする。彼女に真実を、あの叔父は偽者であり、騙されていることを告げる。 "Don't you holler. Just set still, and take it like a man. I got to tell the truth, and you want to brace up, Miss Mary, because it's a bad kind, and going to be hard to take, but there ain't no help for it. These uncles of yourn ain't no uncles at all - they'rea couple of frauds- regular deadbeat. There, now, we're over the worst of it-you can stand the rest middling easy."(p,199) 女性というのは、感情的なものであると考えるハックは"like a man"という言葉を使って、冷静さを保つようにと要求する。しかし、彼女はこの告白に驚き、動揺する。すると、ハックは彼女をなだめて落ち着かせ、自分には計画があるから、その通りの行動して欲しいと言う。年下であるハックが、ここでは、Mary Janeにとっては頼れる男性の部分を強調されて描かれている。やはり、いざというとき女性は、男性に頼る弱さがあるように描かれている。彼女は、ハックの計画が成功するようにと、"・・and I'll pray for you, too!"と言う。彼女に許されているのは、祈ることだけだ。自分の幸福を守るためであっても、自分自身で行動したりしない。 美しさと優しさを持ち合わせ、守られるべき存在。それが、トウェインにとっては理想の女性像と言えるのではないか。 この物語は、冒険物語だ。ハックは、社会の外へと向かい逃亡を繰り返す。その物語の中で彼が出会う人間は、さまざまだ。中には、冒険の中に加わってくる人たちもいる。しかし、それは皆男性ばかりだ。女性は、一様に家の中にいて外に出ることはない。Widow DouglasやMiss Watsonは、家庭の中で、ハックを"sivilize"しようとした。行儀作法や信仰など家の中で重要なこと、生活の基盤となることをハックに教えようとした。ひとり、Sophiaという女性は、勇気をもって家の外へと飛び出したが、ハックはそれをあまり喜んではいない。やはり女性には、Mary Janeのように、優しさをもちながら家の中にいて欲しいのだ。 マーク・トウェインは、19世紀末を生きた作家だ。その時代のアメリカでの女性観とは、女性は家庭を守り、夫と子供のために人生を捧げるものである、女性が直接社会に与することは女性らしさからの逸脱である、というものだった。トウェインもこの考えから外れるような女性は描いていない。冒険に出かけていくのは、いつもハックたち男性であり、女性はいつでも家の中から出ることが出来ないのだ。 |
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