古代ギリシャから人間と文化を考える

堀川宏


 本演習(ゼミ)では古代ギリシャの神話や文学を学びながら、人間とはどのような存在であるかとか、文化とは何かといった「大きな問題」について考えていきます。

 このような問題は扱いが難しく、下手をすると内容空疎な思弁に陥ってしまうことも多いのですが、過度に効率化を求めて視野狭窄に陥りがちな現代において、問われなくてはならない重要な問いでもあります。

 幸いなことに、古代ギリシャの人々は人間について深く考えていました。その成果は文学(literature)として残され、私たちは今でもそれを読むことができます。古代ギリシャ文学の始まりは紀元前8 世紀なので、私たちは約3,000 年の時を隔てて彼らの思考に触れ得るわけですが、それが可能なのは彼らが残した著作が途絶えることなく、連綿と書き写されてきたからです。その営みは私たちに文化について考えるヒントを与えてくれます。

 古代ギリシャを足場にして現代という時代を捉えることも大切です。私たちは自身がまさに対峙している問題を、それが自分の近くにあるという理由でうまく捉えられないことがよくあります。そのような場合には、自分をとり囲む直接の文脈から離れて、少し遠いところから問題を眺めることが有効です。思考の射程をぐっと広げて、目一杯遠いところから現代を生きる人間や、それを支える文化について妥当な方法で考えられるようになることが、本演習の目指すところです。