言語文化概論

(9) 少数民族問題と民族 ・地域紛争

民族国家

  民族を基盤として成立した近代国家。資本主義が成長し始めると、統一された市場の存在が必要となり、政治的には、絶対君主のもとでの国家統一が行われた。しかし、こうして成立した絶対主義国家ではまだ民族的統一が不十分であり、資本主義の発展に伴って民族的統一が確立し、民族国家が成立する。

民族(エスニック)問題とは?

  民族という名における紛争。被抑圧状態にある民衆が、その抑圧を民族的なものとして意識し、民族を単位とする解決を望むような紛争をさす。すなわち、問題の本質が経済的であっても、民族的な問題であると意識されていれば民族問題である。

民族と宗教

中国:55の少数民族

    回族は宗教の違い

旧ユーゴ:ムスリム人も同様

アイルランド:ケルト語を話す人は少数

    カトリックとプロテスタント

インドとパキスタンも宗教の違い

言語と宗教

 人間集団にあって、言語を同じくすることから生まれるきずなには根強いものがある。逆に、言語の違いから生じる他者意識は強烈であり、その点においても民族を識別するうえでの最大の指標はやはり言語であると言える。

 同様に、宗教の歴史を見ると、宗教の違いから生じる、異教徒への他者意識の強烈さに気づく。宗教もまた人間集団を民族識別する指標として大きな位置を占めている。

多民族国家

  複数の民族を基盤にして国家が成立する場合も多く、これを多民族国家といい、そのなかでの支配的民族と被支配民族の対立が民族問題として登場した。一方、植民地として支配されたアジア・アフリカでは民族国家の成立が暴力的に妨げられていたが、第二次世界大戦のあと次々に政治的独立を達成した。しかし、ここで成立した国家は、植民地時代に人為的に引かれた境界をそのまま国境とするなど、植民地時代の遺産によって不合理な要素を含んでおり、民族自決権の確立、民族国家の形成がまだ課題として残されている。

言語と国家

  国家と民族言語の間には次のような関係がある。(1)1言語が多国家で用いられる場合 たとえばドイツ語はドイツ,オーストリア,スイスなどで公用語とされている。(2)1言語がある1国家だけで用いられる場合 日本語と日本,ノルウェー語とノルウェーにその例を見る。(3)多言語が1国家で話されている場合 旧ソ連,中国,旧ユーゴスラビアのような地域的広がりの比較的大きい国家に多い。大半の言語は(1)もしくは(3)の型に入り,(2)の例は珍しい。

言語政策

 

  国家が言語の統一と規準化などのために施す政策。言語を支えているのはその言語を母語としている民族である。しかし政治単位である国家と言語の担い手である民族とは必ずしも一致しない。そこで国家は統一を維持するために民族言語を規制しようとし,民族はこれに反発する。ここに言語紛争の根源がある。

  言語政策の内容は、公用語・標準語の制定、文字改革、表記法の変更、「国語」教育など 

複合言語国家

  旧ユーゴスラビアは言語的に複雑で,セルビア・クロアチア語,スロベニア語,マケドニア語が公用語としてそれぞれ用いられ,しかもスロベニア語とセルビア語はラテン文字で,クロアチア語とマケドニア語はキリル文字で表記されてきた。ほかにハンガリー語,トルコ語,スロバキア語,ブルガリア語,ルーマニア語が一部で話されている。このうち,前述の公用語とされている言語は旧ユーゴスラビアの中でのみ使用されている〈単一言語〉である

少数民族言語

  ロシアや中国は〈単一言語〉を数多くかかえているが,ほとんどが少数民族の言語である。そのような複合言語国家(多言語国家)では,常に多数民族と少数民族との間の言語調整が問題となる。もし放置しておくと,多数民族言語が少数民族言語を吸収してしまうおそれがある。例えば,アメリカにおけるアメリカ・インディアンの言語や日本におけるアイヌ語はいまや消滅の危機にさらされているし,かつて中国を256年にわたり支配した清王朝の言語である満州語も微少なまでに衰退してしまった。

少数民族

  民族国家 nationstate を形成していない,人口比率において少数派 minority のエスニック集団(ある民族=nation に所属し,共通の言語,共通の慣習や信仰,さらには文化的伝統をもった,他と異なる成員)をいう。

メスティソ

  先住民(インディオ,インディヘナ)と白人の混血を指す。広くは,いろいろな人種の混血を意味する。現在のラテン・アメリカでは国民文化の担い手とされているが,植民地時代の社会的地位は低かった。

  現在,メスティソの名称は地域によって異なり,メキシコでは一般にメスティソ,メキシコでもチアパス州ではラディノ ladinoグアテマラでもラディノ,ペルーではチョロ choloときによりクリオーリョ,ブラジルではカボクロと呼ばれる。

少数民族言語の弾圧と保護

  イギリスにおけるウェールズ語やスペインでのバスク語のように,よくその本質を保持している例もある。この場合は民族言語が独立運動のよりどころとなることが多い。ために複合言語国家では少数民族言語の弾圧がよく行われた。たとえばスペインのフランコ政権はカタルニャ語による書物の出版を禁止していた。しかし旧ソ連や中国のような超大国家は,それぞれロシア語と中国語を共通語として強制的に国民に教育する反面,少数民族の言語を文化語として確立させるよう配慮してきた。

旧ソ連の言語政策

  旧ソ連内の少数民族は,まず民族言語の方言の中から標準語を設定し,これに正書法を与えて伝達と文芸の表現手段として活用するように助成された。たとえばチュルク系のウズベク共和国(現,ウズベキスタン)では1939年から,ウラル系のコミ自治共和国(現,コミ共和国)では1936年からキリル文字による民族言語の正書法が確立され,文典や辞書類が発刊されると共に学校でも教授されていた。ただし,エストニア,ラトビア,リトアニア,それにグルジアとアルメニア共和国のように,すでにラテン文字もしくは固有の言語文字の表記法を所有する共和国もある。だがそこでも民族言語による学校教育が主体をなしつつも,やはりロシア語が必須として課せられていた。

現代の民族/エスニック問題

  インド亜大陸の混乱(インド,パキスタン,バングラデシュ),ナイジェリアのビアフラ戦争,ルワンダやブルンジにおけるフトゥ族とツチ族の抗争,イラク,イラン,トルコにおけるクルド族の反乱,レバノンの悲劇とアラブ・イスラエル紛争,ユーゴスラビアのコソボ地方のアルバニア人問題,スペインにおけるバスクやカタルニャの地方自治問題,ベルギーにおける二つの言語問題,北方アイルランドのカトリックとプロテスタントの対立,カナダのケベック問題,スリランカのシンハラ人とタミル人の対立,アメリカ合衆国多数派(ワスプ=白人,アングロ・サクソン,プロテスタント)による少数派集団(黒人,ラテン系ないしスペイン語系,東洋系)の支配,南アフリカ共和国における支配集団白人の最近まで続いたアパルトヘイト,ラテン・アメリカにおける先住インディオの問題等々。

エスニックグループ

  国家の内部で民族というほどには大きくないエスニック・グループが、政治的・社会的・文化的な運動を展開しているが、その際のエスニシティの概念は、生物的属性をあらわしているわけではなく、政治的・文化的運動のシンボルとしての性格をもっている。

エスノナショナリズム

  今日、インドやスリランカ、東欧、旧ソ連などの各地では、「エスノナショナリズム」の運動が発生している。現在、文化的・言語的に分類された人口集団の共属感覚や運命的一体感などに対してエスニシティという言葉がもちいられている。

バスク

バスクとして独自に統一されたことは過去に一度もなく、したがってバスク地方とは、バスク語を話すバスク人のすむ地域をいう。しかし、今日この地域でバスク語を話す人口は、スペイン側では約25%、フランス側では約10%である。

マ人

古くはジプシーと呼ばれた。(蔑称)

14世紀ごろヨーロッパにあらわれ、特有の文化、生活様式、言語、身体的特徴を共有してきた人々。閉鎖的で結束力の強い小規模の共同体単位で移動生活をおくる。現在では東アジア、東南アジア、アフリカの南半分をのぞく、ほぼ全世界に分布すると考えられている。

クルド人

トルコ・イラン・イラクほかにまたがる地域に住む

 

独自の国家をめざす

ジェノサイド

  かつて,民族主義イデオロギーの美名のもとに,少数派民族やエスニック少数派はジェノサイド genocide(大量殺戮(さつりく))にみまわれた。その犠牲者は,アルメニア人,ヨーロッパ系ユダヤ人,南アメリカのインディオなどであった。エスニシティを重視する立場からすれば,あるエスニック集団の文化的アイデンティティの破壊政策,つまり民族的連帯の名によるエスニック集団の文化的抹殺=エスノサイド ethnocide が行われたことになる。

ユダヤ人

ユダヤ教により結ばれた同胞集団

 

カナンの地からの追放

世界各地に拡散

 

迫害

 

第二次大戦後イスラエル建国

 −>パレスチナ紛争

 ホロコースト記念碑

ボスニア紛争

1991年に旧ユーゴスラビアではじまった民族紛争。旧ユーゴスラビアからクロアチア共和国とボスニア・ヘルツェゴビナ共和国が独立すると、所属する3つの民族グループ(セルビア人、クロアチア人、ボスニアのムスリム人)が、たがいに領土を主張してゆずらず激しい戦闘をくりかえした。

コソボ紛争

19982月末、コソボの独立をめざすアルバニア人武装組織のコソボ解放軍(KLA)に対して、セルビア警察部隊が大規模な掃討作戦を開始した。3月、アルバニア系住民は、ルゴバを大統領とする「コソボ共和国」の独立を宣言した。

スリランカ

南アジア南部、インド半島南東沖の共和国。正式国名はスリランカ民主社会主義共和国で、イギリス連邦に加盟する。旧称セイロン。

タミール人とシンハラ人の対立・紛争

アフリカの民族抗争

  アフリカ大陸においては、同じ言語、同じ文化をもった集団が、植民地支配の過程で、複数の異なる民族(政治的単位)に分断され、独立もそのような人工的政治単位ごとになされ、今日に至っているケースが数多くみられる(それが今日のアフリカの民族抗争の最大の因子となっている)。

 

ルワンダ

アフリカ大陸中東部にある共和国。正式国名はルワンダ共和国。ウガンダ、タンザニア、ブルンジ、コンゴ民主共和国(旧ザイール)にかこまれる。19944月にツチ族とフツ族の民族対立などを要因とする内戦(コンゴ紛争)がはじまり、200万人にもおよぶ難民がコンゴ民主共和国やブルンジに避難した。PKO(国連平和維持活動)もおこなわれたが、964月に活動を終了した。

エスノサイド

  エスノサイドは,自然的ないし内発的な過程である文化変容 acculturation や文化変動cultural change とは明確に区別される。エスノサイドは,フランスにおけるブルトン語,コルシカ,オック語系の諸地方での政策,フランコ独裁下のスペイン政府の対カタルニャ人政策,アイルランド,スコットランド,ウェールズへのイングランドの対応,先住インディオへの大半のラテン・アメリカ諸国の対応,中東・北アフリカ諸国における非アラブ系少数派へのアラブ化強制政策などである。

 スーダン・ダルフール地方

おわり

学んだことをレポートに!また来週!!!