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目指す失語症リハビリシステムについて


5製品すべてに言えることですが、遠隔学習/e-learningという部分はあまり重要視されていないようです。それぞれのシステムで、 学習の履歴を残し、それを離れたところにいるSTがインターネット上で閲覧できるかどうかは不明です。

私は、言語障害一般のためのシステムではなく、失語症の方が発症まえの言語レベルを回復するための、主にリハビリ用システムを作り、 インターネット上で無料で公開することを目指しています。いわば、辞書部分はリングラフィカで、利用の仕方はPICOT on WEBやAISTの絵文作成ツールです。既に無料で公開されている絵文字を利用すれば、辞書部分はなんとかなりそうです。

一番力を入れたいのは画像でつくる文の構造や文法性判断機能の追加です。言語学の中では当然のこととして知られていることですが、 発音するためには文の部品である単語(形態素)を線形的に一列に並べる必要があります(2つの単語を同時に発音できないので)が、 語と語の統語的、意味的結びつきは線形ではありません。例えば、「太郎が花子をなぐった」という文では、「なぐる」という動詞が 中心となり、2つの名詞句を必須要素(日本語は省略が許されるので見かけ上主語や目的語を欠いた文はありますが)としてとり、 「太郎が」と「花子を」は線形的には隣接していますが、直接の依存関係はありません。また、「が」や「を」などの格助詞を決めて いるのは動詞です。このような依存関係を表すのに広く言語学で使われているのはNP(名詞句), VP(動詞句)などの節点を持つ句構造とか樹形図とか呼ばれるものですが、これを失語症のリハビリシステムに入れても明らかに無駄 でしょう。

動詞を扱った失語症の教材ではよく、動詞を真ん中に置き、主語、目的語、修飾語などを周りに配置して直接線で結ぶと いうような表示が使われます。これは、言語学で言えば、依存グラフ(依存文法、リンク文法、語彙文法などいくつかの理論的枠組み で採用されていると統語標示)です。リンク文法の提唱者の1人であるDaniel D. K. Sleatorはリンク文法に基づいたパーザーを実装し、辞書とともに公開しています。辞書項目の発音/スペルを絵文字に代えて、 統語的情報はそのまま引き継げば、ターゲットとする言語の限定的な単語で作られる中心的構文の文法判断をするパーザーの実装は 可能(私はできませんが)と思われます。

但し、上記の依存グラフで、1点修正したい点があります。Joseph Greenbergは、人間が使っている言語の基本語順が SVO(英語など), SOV(日本語など), VSO(チャモロ語など)がほとんどであり、基本語順が他のいろいろな統語的性質と 関係があることを明らかにしています。句構造で描くと、この3つは異なる表示になりますが、発音する際の語順を無視して 依存関係を表せば共通の依存グラフになります。発音レベルの語順の違いは、計算科学でよく知られている木探索アルゴリズムの 前順(preorder)、間順(inorder)、後順(postorder)探索を利用すれば簡単に出せます。リンク文法を含むこれまでの理論では、依存グラフを語順と結びつけており、語順を捨象した依存グラフという考えは提案されていません。語順を捨象した依存グラフに ついてはいくつか論文を発表 しているので参考にしていただければと思います。

文構造の表示が語順と独立していれば、文構造そのものはおおよそどの 言語にも共通となります。また、失語症リハビリシステムにおける辞書は画像であり、動詞、名詞などの内容語に関しては 各言語でほぼ共通に使えます。 つまり、これからつくろうというシステムはどの言語を母国語とする方も参加していただけるものと考えます。私は、語順を捨象 した依存グラフ生成システム作成の(実装ではなく)理論的部分と、言語間で大きくことなる機能語の処理を追求したいと思います。

絵文字に関しては、数を増やすことと、アニメーションGIFでよりわかりやすいものを作っていく必要がありますが、これは私でも できますが、得意ではありません。絵文字をつかってとりあえず自律リハビリができるようなエクササイズをHotPotatoesで作って いくことはしたいと思いますが、HotPotatoesはフリーで使えるので、他の皆さんにも作っていただきたいと考えます。

私が全く 出来ないのはシステムの実装で、一緒に共同研究をしてくれる方を募集しております。興味が持っていただけたら myasui@dokkyo.ac.jpにご連絡ください。

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